SES契約(System Engineering Service契約)とは?SES契約(System Engineering Service契約)とは、システムエンジニア(技術者)に対してシステム・ソフトウェア・アプリケーションなどの開発・運用業務を委託する委託契約のひとつです。成果物の完成を目的とせずに、委託業務を手掛けるシステムエンジニアの労働の提供を目的として締結される契約をさします。SES契約の形態は、準委任契約に該当します。なお、準委任契約には、本コラムで解説するSES契約のほかに、ラボ型開発(オフショア開発の一種で、一定期間にわたり海外のエンジニアで構成される専属チームを確保し、委託元の指示でシステム開発プロジェクトを進行させること)を行う際に締結する必要のあるラボ契約もあります。ラボ契約およびオフショア開発について理解を深めたい場合は、以下の記事をご覧ください。ラボ契約(ラボ型開発)とは?請負契約との違い、メリット・デメリットオフショア開発とは?活用される背景や目的、メリット・デメリットを解説SES契約の契約内容SES契約では、エンジニアの労働力の提供が契約対象となり、エンジニアの作業した時間や工数に対して報酬が支払われる仕組みです。具体例を挙げると、エンジニアがクライアント企業のオフィスでの業務に10時間従事した場合、そのエンジニアについて10時間分の時間給が支払われます。SES契約の契約期間多くの場合、SES契約の期間は1〜3ヶ月程度で設定されます。業務を提供するシステムエンジニア側からすると、1〜3ヶ月ごとに職場が変更となり、一緒に仕事をする人も変わることになります。SES契約では、契約で設定された期間に業務を手掛け、技術を提供することが約束されます。なお、契約当事者の合意によって、契約期間を更新(延長)することも可能です。SES契約の報酬SES契約の報酬金額については、一般的に1カ月単位で定められます。システム開発の分野では、これを「人月単価(単価)」と呼んでいます。人月単価はシステムエンジニアの経歴や経験によって大きく変動し、単価50万円の人もいれば、100万円を超える人も少なくありません。ここからは、人月単価を用いて、クライアントが支払う金額を求める計算式を紹介します。まずは、1ヶ月の労働時間を定義しましょう。例えば、1日あたりの労働時間を8時間と定義し、1ヶ月の勤務日数を20日と仮定すると、1ヶ月の労働時間は160時間です。このように労働時間を定義したら、「エンジニアに設定された単価」と「希望する労働時間」を掛け算することで、クライアントが支払う金額を求められます。例えば、人月単価80万円のシステムエンジニアを80時間発注すると、「80万円×0.5カ月(80÷160)」で40万円の支払いとなります。なお、「エンジニアに設定された単価」はSES企業から提示されるのが基本です。「〇〇のスキルを求めています」と問い合わせをすると、SES企業から「1ヶ月△△万円です」と回答が得られます。その回答を踏まえ、どれほどの期間・時間働いてもらうのかを考えます。SES契約の責任範囲SES契約は、準委任契約に該当するため、成果物の完成責任が問われません。その代わり、SES契約では、システムエンジニアによる労働の提供について責任が問われます。そのため、SES契約においては、システムエンジニアは知識・スキルを生かして業務を遂行する責任を負うものの、システムエンジニアが成果物の納品に対して責任を負うことはなく、たとえ納品したシステムの品質が十分なものでなかったとしても報酬が未払いになることはありません。SES契約の指揮命令権委任契約で客先に常駐する場合、エンジニアとして注意しておく点のひとつに、指揮命令系統が挙げられます。例えば、SES契約を締結してA社がB社に発注した場合、SES契約の労働者の業務場所がA社(発注先、客先常駐)だとしても、エンジニアに指示できるのはB社(受注会社)のみです。つまり、 SES契約では、クライアント側に指揮命令権が認められません。とはいえ、この原則が守られていないことも多く、深刻なトラブルに発展しているケースもあります。なお、ここでいう指揮命令に該当する行為とは、例えば以下のようなものです。業務プロセスの指示(例:システム開発の進め方や作業内容に関する指示)作業時間に関する指示(例:始業・就業時刻の指定や残業の指示、朝礼参加の義務付け、休日勤務の依頼など)業務場所の指定注文範囲外の業務の依頼SES契約は再委託可能かSES契約が再委託可能かは、契約内容次第なので、契約書で確認しましょう。再委託とは、契約の履行にあたって、委託業務の全部または一部について第三者と委任または請負に関する契約を結んで役務の提供を受けることです。SES契約を再委託するケースは珍しくないものの、契約締結時に再委託を禁止することがあります。再委託が禁止されていないSES契約を締結すると、後々に「技術の高い特定のシステムエンジニアに委託したいと考えて通常よりも高額なお金を支払ったものの、実際には他のエンジニアに担当されてしまった」というようなトラブルにつながりかねません。こうしたトラブルを防ぐためには、契約内容に再委託を禁止する旨を盛り込むことが大切です。SES契約の注意点本章では、SES契約にあたって特に注意しておくべき内容を2つのトピックに分け、順番に解説します。偽装請負SES契約における指揮命令権の内容を前述しましたが、クライアント側によるエンジニアへの指揮命令が確認された場合、偽装請負として法令違反になることがあります。偽装請負とは、契約上は準委任契約や請負契約を締結しているにも関わらず、実態としては労働者派遣契約に該当している状態をさします。偽装請負に該当するのは、クライアント側がエンジニアに対して作業の進め方や就業時間を細かく指示したり、残業や休日出勤を命じたりしているケースなどです。労働者派遣事業には厚生労働大臣の許可が必要とされるため、偽装請負と判断された場合は労働者派遣法違反となります。偽装請負と判断された場合、ベンダー側とクライアント側の双方にリスクがあります。まず、ベンダー側では「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」を受けることがあります(労働派遣法第59条第2号)一方のクライアント側では、偽装請負による労働者派遣法違反の場合、厚生労働大臣からの是正措置勧告や勧告に従わない場合はその旨の公表などのリスクがあります(同法第49条の2)。ベンダー側が摘発されることで、プロジェクトの頓挫も想定されます。そのほか、偽装請負の実態が労働者供給事業(供給契約にもとづき、労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させる事業)と判断された場合、職業安定法にもとづいてベンダ側とクライアント側の双方に「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」が科されることがあります(第64条第9号)。以上のことから、ベンダー側・クライアント側を問わず、SES契約を締結する際は、偽装請負に該当しないよう注意しましょう。中途解約について事前の定めもともとSES契約をはじめとする準委任契約では、法律上ベンダー側・クライアント側の双方で自由に解除できます。ただし、相手方にとって不利な時期に解除をする場合、相手方の損害を賠償する義務が発生することがあります。過去には、SES契約を締結したベンダー側のフリーランスXとクライアント側のY社との間で、期間更新の合意後すぐに契約の解除がなされた事案について、裁判所はYに対してXが解除されるまでの報酬および解除後に別の業務に就けるまでにかかった期間(不自然、不合理といえない範囲)の報酬の支払義務があることを認めています。(東京地裁令和元年5月28日)もちろんすべてのケースで上記判例のように損害賠償義務が発生するわけではありませんが、最終的には裁判で決めなければならないケースが多く、クライアント側ではどのような判断がなされるかについてリスクがあります。こうしたリスクに備えるためには、事前に契約書の中でしっかりと規定しておくことが効果的です。「中途解約はその1ヶ月前までに申し出る」といった内容を契約書に盛り込んでおくことで、認識の齟齬がなくなり、将来的な紛争リスクを回避できます。SES契約と請負契約の違いSES契約と類似する契約方式に、請負契約があります。請負契約とは、受託する業務を完了させることを約束し、その成果物に対して発注者が報酬を支払う契約のことです。そのため、ベンダー側は成果物に対する責任を負い、もしも納品した仕事にミスや欠陥があれば改修・修繕をしなければなりません。SES契約と請負契約にある大きな違いは、約束の内容です。SES契約は依頼された期間に業務を行って技術を提供することを約束するのに対して、請負契約では決められた納期までに成果物を完成させることを約束します。請負契約については以下記事内で依頼する際のポイントをまとめていますので、契約をご検討の際はご一読ください。請負開発とは?受託開発やラボ型開発との違い、メリット・デメリットSES契約と派遣契約の違いSES契約と混同されやすい契約形態としては、派遣契約も挙げられます。派遣契約とは、派遣会社から派遣された企業で労働する雇用形態のことです。業務内容は派遣先の企業で定められ、その労働に従事しなければなりません。そのため、依頼されたものを完成させる義務はなく、労働したことへの対価が支払われる仕組みです。SES契約と派遣契約にある大きな違いは、指揮命令権です。SES契約においてエンジニアの指揮命令権はベンダー側にあるのに対して、派遣契約ではエンジニアの指揮命令権は派遣先のクライアント側にあります。そのため、派遣契約の場合、エンジニアは派遣先企業から直接指示を受けながら労働する点が特徴的です。SES契約のメリット・デメリット最後に、SES契約の締結にあたって生じる可能性のあるメリット・デメリットについて、クライアント・エンジニア・ベンダーの3者に分けて順番に解説します。クライアントまずは、クライアント側がSES契約を締結するうえで考えられる代表的なメリット・デメリットを順番に取り上げます。メリットクライアント側におけるSES契約のメリットのひとつに、エンジニアの採用や教育にかかるコストの抑制につながる点が挙げられます。SES契約を締結するベンダー企業は、事業の性質上、クライアントの要望に沿ってスキルを発揮できる経験豊富なエンジニアを確保しているケースが多いです。そのため、プロジェクトを進行させるうえで、ゼロからエンジニアを探したり教育したりするよりも、「〇〇を行えるエンジニアはいないか」とベンダー企業に頼るほうが、効率的にスキルの高いエンジニアを見つけられる可能性があります。また、SES契約では、請負契約と異なり、ITエンジニアのリソースを短期間で比較的容易に確保できる可能性があるため、常駐案件の発注を行いやすい点もメリットのひとつです。弊社freecracyのラボ型開発においても試用期間であれば3日前、その後も2ヶ月前に通知いただければ、無料での人材のリプレイスメントや契約終了が可能です。デメリットクライアント側が把握しておくべきデメリットのひとつに、エンジニアとの契約期間内に望んだ成果が得られるという保証がない点が挙げられます。工数の見込みが甘かったり、想定よりもエンジニアの作業の進捗が遅れていたりすれば、中途半端な状態で契約期間が終了してしまうケースがあります。その結果として、成果が出るまでのコストが大きくなってしまう可能性がある点に注意しましょう。また、SES契約では、契約終了に伴い、それまで業務を手掛けていたエンジニアがクライアント企業を離れてしまうと、その後に開発ノウハウが残らないケースが多いです。これに対して、ラボ契約にもとづくラボ型開発では、委託元の指示のもとで長期間にわたり同じメンバーのチームを開発に携わらせるケースが多く、クライアント側に開発ノウハウが蓄積されやすくなります。これにより、開発スピードの向上やチーム間の円滑なコミュニケーションなど、システム・ソフトウェア開発に対して良い影響をもたらしやすくなります。したがって、システム・ソフトウェア開発業務の委託にあたって自社に開発ノウハウを蓄積させたい場合は、SES契約ではなく、ラボ契約にもとづくラボ型開発を検討することが望ましいです。ラボ型開発に関する詳細は、以下の記事で解説しています。ラボ型開発とは?メリット・デメリット、請負型との違い、注意点を解説エンジニア続いて、SES契約にもとづいて業務を手掛けるエンジニア側で考えられる代表的なメリット・デメリットを順番に取り上げます。メリットSES契約によって業務を手掛けるエンジニア個人からすると、さまざまな企業で働く経験が積める点は魅力的なメリットです。SES契約にもとづいて現場で働く場合、契約期間が終わり次第、新たな職場で業務に取り組み始めることになるため、エンジニアは多様なプロジェクトに関わりながら汎用性の高いスキルと実務経験を積めます。また、SES契約では、クライアント企業のスタッフや同じ現場にアサインされた他社のエンジニアと関わる機会も得られます。将来のキャリアを考えた場合に、業務を通じてコネクションを形成できる可能性がある点もメリットのひとつです。デメリットエンジニアとしてSES契約にもとづき現場で働くデメリットのひとつに、やりがいを感じにくい可能性がある点が挙げられます。エンジニアの中には、自身が携わったプロジェクトが完成したことでやりがいを感じた経験がある人も少なくありません。しかし、SES契約ではプロジェクトの途中で別の案件での業務に切り替わるケースがあり、自身が携わったプロジェクトを最後まで見届けられない可能性があります。このように決められた期間のみ業務を提供するSES契約の場合、仕事のモチベーションを維持することが難しいと感じるおそれがあります。ベンダー最後に、ベンダー側がSES契約を締結するにあたって考えられる代表的なメリット・デメリットを順番に取り上げます。メリットベンダー側のメリットのひとつに、自社でエンジニア管理をしやすい点が挙げられます。準委任契約であるSES契約を締結すると、ベンダーが指揮命令権を握れます。そのため、指揮命令権をクライアントが握る派遣契約や、成果に対してベンダーが責任を負う請負契約などと比べた場合に、管理面でのリスクが軽減する可能性があります。また、金融や官公庁などのシステム開発のように、外部へのデータの持ち出しが難しいようなケースであっても、SES契約を通じて常駐作業に対応できるため、ベンダー側では案件獲得につながりやすいメリットを享受できます。デメリットベンダーにとって注意すべきデメリットのひとつに、あらかじめスキルの高いエンジニアを集めておかないと、クライアントのニーズに応えられない可能性がある点が挙げられます。準委任契約の一種であるSES契約では、プロとしての業務遂行に期待して報酬を支払うことになるため、クライアント側では即戦力となるエンジニアを求めるのが一般的です。国内のIT人材の需給ギャップが拡大し、エンジニア不足はさらに進んでいくという予想もある現在、クライアントのニーズを満たせる市場価値の高いエンジニアを確保することは、決して容易ではありません。また、クライアントから指揮命令権に関する理解を得にくい点もデメリットといえます。クライアントから派遣契約との違いについて理解が得られなければ、指揮命令権を無視して自社のスタッフに直接指示が行われてしまいかねないため注意が必要です。まとめSES契約とは、システムエンジニア(技術者)に対してシステム・ソフトウェア・アプリケーションなどの開発・運用業務を委託する委託契約のひとつです。成果物の完成を目的とせずに、委託業務を手掛けるシステムエンジニアの労働の提供を目的として締結されます。SES契約と請負契約の違いは、約束の内容にあります。また、SES契約と派遣契約の違いは、指揮命令権の有無です。SES契約を締結する際は、偽装請負に該当すると判断されないようクライアント側に対して指揮命令権に関する理解を求めましょう。中途解約に際して損害賠償義務を負わないよう、事前に契約書で定めておくことも大切です。今回紹介したSES契約のメリット・デメリットや請負契約および派遣契約との違いを理解したうえで、自分の状況に適した契約方法を見つけましょう。