SESとは?SES(System Engineering Service)とは、IT技術者(エンジニア)を企業に派遣し、システムの開発・保守・運用などの支援を手がけるサービスのことです。SESを手がけている企業(SES企業)ではシステムエンジニアやプログラマーなど専門的なスキルを持つエンジニアを抱えており、それらの人材をクライアントである企業に対して提供します。SESの契約SES契約の形態は、準委任契約の一種として位置付けられています。SES契約の対象はエンジニアによる労働力の提供であり、エンジニアの作業した時間や工数に対して報酬が支払われます。成果物の完成責任が問われない代わりに、エンジニアによる労働の提供に対する責任が問われる点が特徴的です。SES契約の期間は、多くのケースで1〜3ヶ月前後で設定されます。契約で設定された期間にわたってエンジニアが業務を手掛け、技術を提供することが取り決められます。一般的に、SES契約の報酬金額は、1カ月単位で定められます。これは「人月単価」と呼ばれており、システムエンジニアの経歴や経験によって大きく変動します。実際にクライアントが支払う金額は、「それぞれのエンジニアに設定された人月単価」と「提供してほしい労働時間」を掛け算することで算出可能です。また、SES契約の場合、エンジニアに対する指揮命令権は、クライアント側ではなくSES企業にあるのが原則です(この原則が守られず、深刻なトラブルに発展しているケースも見られます)。SES契約における再委託(委託された業務を第三者に再度委託する行為)の可否は、契約内容により決まります。再委託が禁止されていないSES契約を締結すると、「高い技術力を持った人材に業務を委託したかったものの、実際には見込んでいた技術力に満たない他の人材に業務担当されてしまった」といったトラブルが発生しかねません。このトラブルを防ぐためには、契約内容に再委託を禁ずる旨を盛り込みましょう。SES契約についてさらに理解を深めたい場合は、以下の記事で解説していますので、併せてご覧ください。SES契約とは?契約内容や注意点、請負契約・派遣契約との違いも解説SESとSEの違いSESとSEは類似している言葉ですが、明確な違いがあります。SESとSEを混同して使っている人は少なくありませんので、ここで2つの用語の相違点を把握しておきましょう。SE(Systems Engineer)とは、システムエンジニアの略称であり、ITシステムの設計・開発・保守・運用など、システム開発全般を担当する職種のことです。クライアントの要求を理解し、その要求に基づいたシステムを設計・開発する役割を果たします。また、プログラムの構築やデバッグ・テストなども担当します。これに対して、SESは、SEやプログラマーなどのエンジニアをクライアントとなる企業に派遣し、システムの開発・保守・運用などの業務を担わせるサービスのことです。以上をまとめると、SESはエンジニアによる労働を顧客企業に提供するサービスのことで、SEはSESにおいてシステム開発を担当するエンジニアの職種をさします。つまり、SEは、SESを提供するために企業に派遣されるエンジニアの一種として位置付けられています。SESとSIerの違いSESとSIerの違いがわからずに誤用している方も多く見受けられます。本章で主な相違点を解説しますので、把握しておきましょう。SIer(System Integrator:エスアイヤー)とは、システム開発のすべての工程を請け負う受託開発企業のことです。別名「システムベンダー」や「ITベンダー」とも呼ばれています。SIerは、顧客企業のニーズを把握し、それをもとにハードウェアやソフトウェアの選定・システムの設計・開発・導入・運用といった一連の流れを管理します。また、既存のシステムと新たに導入するシステムを適切に連携させることも、SIerが担う重要な役割の一つです。以上を踏まえると、SIerはクライアントから委託を受けて、開発のあらゆる工程を担当する企業であるのに対して、SESは準委任契約にもとづきエンジニアによる労働力の提供を行う企業です。一般的に、SIerは情報システムの全体的な構築が必要な場合に利用されることが多い一方で、SESは特定のITスキルが必要な場合や一時的な人手不足を補うために利用されることが多いです。そのため、SIerでエンジニアリソースが自社の従業員だけで足りない場合、SESを活用することがあります。なお、IT業界では、プロジェクト全体を一つのSIerがすべて手掛けることは稀で、多くのケースでは複数のSIerが各自特化した部分を担当し、連携してプロジェクトを進めます。案件を受注した元請けSIer(別名:プライムベンダー)が全ての工程を自社のみで完結させることが難しい場合、下請けのSIerに対して部分的な作業を発注します。具体的には、元請けSIerでは要件定義・基本設計・プロジェクト全体の管理などを担当します。その一方、下請けとしてプロジェクトに参加するSIerは、詳細設計・開発実装・テストなどを担当するのが一般的です。このように、同じSIerでも、在籍する企業や受託する案件によって手がける業務が異なる点を把握しておきましょう。SESと派遣の違い派遣契約とSES契約では、エンジニアの作業時間に対して報酬が発生する点は共通するものの、クライアント側における指揮命令権の有無に違いが見られます。派遣契約の場合、派遣されるエンジニアと派遣先のクライアント企業の間に直接の雇用関係はないものの、派遣されるエンジニアに対する指揮命令権をクライアント企業が持ちます。そのため、派遣契約の場合、エンジニアはクライアント企業から直接指示を受けて仕事を行う点に留意しておきましょう。これに対して、SES契約では、具体的な作業指示は派遣元であるSES企業側に委ねられ、クライアント企業はあくまでも派遣されたエンジニアによる労働の提供のみを求めます。もしもSES契約において、クライアント企業が派遣されたエンジニアに対して直接指示を行えば、偽装請負(労働者派遣法違反)とみなされる可能性があるため注意しましょう。SESのメリット・デメリットここからは、SESを利用するクライアント側とSESで派遣されるエンジニア側に分けて、それぞれにとって想定されるメリットとデメリットを順番に取り上げます。クライアントまずは、SESの提供を受けるクライアント企業において想定される代表的なメリットとデメリットを順番に解説します。メリットSESを利用するクライアント企業で期待できる大きなメリットに、自社が求める特定の技術・分野に精通したエンジニアを確保できる点があります。特定のプロジェクトに必要なスキルを持つエンジニアを直接雇用する場合、人材探しや面接などの手間がかかるだけでなく、必ずしも採用が成功するとは限りません。その点、SESを利用すれば、一定の品質と専門性を持ったエンジニアを迅速に確保することが可能です。また、SESは一定期間にわたりエンジニアによる労働の提供を受けられるという性質上、自社でエンジニアを育成する時間・リソースが不要となるため、人件費を抑えやすくなります。基本的に、SESで派遣されたエンジニアに対して教育・研修を実施する必要性はほとんどありません。そのほか、SES契約では、エンジニアのリソースを比較的スピーディーかつ容易に確保できるために常駐案件を発注しやすい点も、クライアント企業にとってメリットだといえます。デメリットSES契約を締結する場合、クライアント企業側では派遣されたエンジニアに対して現場での直接指示や専門的な指導を行えない点に注意しましょう。仮にクライアント企業側で指示を出せば「偽装請負」に該当し、法的な罰則を受けるおそれがあります。SES契約においてエンジニアに対する適切な扱い方を把握するには、厚生労働省が公開しているガイドラインをご確認ください。また、SESの場合、契約期間が終了すると、派遣されていたエンジニアがクライアント企業を去ります。これに伴い、当該プロジェクトに関する知識・経験が蓄積されず、今後同様のプロジェクトを再度行う際に過去の経験を生かせなくなるリスクがあります。そのほか、SES契約は準委任契約であり、あくまでもエンジニアの労働に対して報酬を支払う必要がある点にも注意が必要です。必ずしもクライアント企業が期待する成果が得られるとは限りません。参考:厚生労働省「労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド」エンジニア続いて、SESの中で仕事をするエンジニアについて想定される代表的なメリットとデメリットを順番に解説します。メリットエンジニアにとって、SES企業で働くことは自身の能力を伸ばす絶好のチャンスです。SES企業ではさまざまな企業・プロジェクトに関与する機会があり、仕事を通じて新たな知識や経験を得ることが可能です。さまざま企業・プロジェクトに関わることで、新しい考え方・企業文化に触れられて、自分自身がこれまで気づかなかった視点・知識を学べるでしょう。また、さまざまな企業や人々とのつながりを作ることは、キャリア面を考慮してもプラスに作用します。初めて業界に足を踏み入れる新人エンジニアにとっても、SES企業で働くことで多くのことを学べます。多種多様な企業・プロジェクトに関与することで、IT知識を増やし、さまざまな経験を積むことが可能です。そのため、成長を望む初心者エンジニアの方々は、SES企業での就労は絶好の選択となるでしょう。デメリットSESで働く際は、人間関係が大切な要素の一つとなります。担当する現場で人間関係の相性が悪いと、モチベーションを下げる可能性があります。特に自社のスタッフがいない現場では、気軽に悩みを相談するのが難しく、不満を溜め込んでしまいやすいでしょう。また最近では特にリモートワークも多くなっており、相談するハードルが上がっていることも考えられます。また、SESの仕事はさまざまな現場で経験を積める反面、企業側の事情で予期せぬプロジェクトの変更に対応しなければならないこともあります。プロジェクトを初めから終わりまで手掛けたいと考えるエンジニアにとっては、突発的な変更に不満を感じやすいでしょう。さらに、SESエンジニアは基本的にクライアント企業に常駐して働くため、自社への帰属意識が薄くなる傾向があり、こうした面でもSES企業で仕事をするモチベーションを維持することが大変な場合があります。まとめSESとは、エンジニアを企業に派遣し、システムの開発・保守・運用の支援を行うサービスのことです。SESと派遣の主な違いは、クライアント側における指揮命令権の有無にあります。派遣ではエンジニアに対する指揮命令権をクライアント企業が持つのに対して、SESでは具体的な作業指示は派遣元であるSES企業側に委ねられます。SESを利用すれば、自社が求める特定の技術・分野に精通したエンジニアを確保できたり、エンジニアを育成する時間・リソースが不要なので人件費を抑えやすかったりするメリットがあります。その反面、プロジェクトに関する知識・経験が蓄積されにくかったり、必ずしもクライアント企業が期待する成果が得られるとは限らなかったりといったデメリットの発生が問題となるケースもあるため注意しましょう。システム開発を実施する際は、自社でこれから進めていくプロジェクトの特徴を把握し、それに適した契約形態を選択してください。