フィリピンがオフショア開発先としてシェアを拡大していることをご存知でしょうか?オフショア開発.com発行のオフショア開発白書(2023年版)によると、2022年のオフショア開発委託先ランキングではフィリピンが第2位となっています。需要増加の代表的な要因としては他国と比較した単価の安さやアジア諸国と比較してもエンジニアの英語力が高いことが挙げられますが、他にも様々な魅力があります。本記事ではフィリピンをオフショア開発先として選ぶメリットを単価、地理的側面やマーケットとしての魅力などを他国と比較しながら解説します。また記事の最後ではメリットだけでなく、リスクとそれに対する対応策も解説しています。フィリピンの現状を知ることで、フィリピンをオフショア開発の候補先として検討する際の他国との比較材料としてご活用ください。フィリピンを選ぶメリット1:単価の安さと税制面でのメリット 2023年時点の最新情報あり!オフショア開発でフィリピンを選ぶメリットは多いが、2023年時点で特に注目すべきは単価の安さと税制面での利点です。ビジネスを展開する際の初期コストや運営費が抑えられるだけでなく、税制面での優遇措置も魅力。これにより、多くの企業がフィリピン進出を選択しています。日本のIT人材の人月単価と比較して大幅に安い相場ECONOMIC EWSEARCH INSTITUTEによるとによるとフィリピンのIT人材の平均年収は856,240フィリピン・ペソです。これは2023年9月時点でのレート(約1ペソ/2.6円)で換算すると日本円で220万円程で、日本のIT人材の平均年収の約1/4に相当します。そのためフィリピンにオフショア開発を委託することで、大幅なコスト削減を実現することができます。インド、ベトナムと比較した時の費用対効果の面での魅力次に2022年のオフショア開発委託先ランキング(*1)で1位のベトナム、3位のインドと比較して見ていきましょう。まず単価の安さが人気のベトナムと比較しても、フィリピンのプログラマーやPMの単価の安さが目立ちます。ブリッジSEの単価はフィリピンが大幅に高額ですが、フィリピンのエンジニアは英語力が高い傾向があるためブリッジSEを介さずに自社の英語が堪能な人材を両国の間に立てて案件を進めることも検討するとよいでしょう。フィリピン人の英語力についてはフィリピンを選ぶメリット3にて後程詳しく解説します。またインドと比較すると両国ともに英語が堪能な人材が多いにもかかわらず単価の安さが顕著です。(*1)オフショア開発.com"オフショア開発白書2023年度版".p7.オフショア開発委託先国別ランキング物価の安さとラボ型開発における優位性フィリピンの物価は日本の約1/3程度です。そのためオフショア開発にかかる人件費以外の価格(オフィス賃料、通信費、備品費など)も安く抑えることができます。例えばフィリピンの首都マニラと東京でオフィスを借りた場合の家賃差を比較すると、マニラのオフィスの賃料は1坪あたり月額2,000円~5,000円程度に対して東京では1坪あたり月額10,000円~20,000円ですから、家賃は1/5~1/10程度の費用だけで済むことになります。このようにフィリピン現地でオフィスを借りてラボ型開発を行う場合も手頃な価格であるためランニングコストを大幅に抑えることができます。税制面でのメリットフィリピンは日本と租税条約を締結しています。そのため日本企業がフィリピン企業にオフショア開発を委託した場合、一定の条件を満たすことで二重課税を回避することができます。これらのメリットにより、フィリピンオフショア開発はコスト削減を目的としたオフショア開発に最適な選択肢と言えます。人月単価(万円)プログラマーシニアエンジニアブリッジSEPMフィリピン35.8353.3381.2570.83インド50.8368.7594.29111.43ベトナム40.2249.1357.7379.38》参考:オフショア開発.com|オフショア開発白書(2023年版)(2023年9月13日参照)》参考:ECONOMIC EWSEARCH INSTITUTE|Systems Engineer Salary in Philippines(2023年9月13日参照)フィリピンを選ぶメリット2:時差の少なさフィリピンと日本の時差はわずか1時間であるためビジネスアワーがほぼ一致しています。この特徴には以下のようなメリットがあります。メリットその1:外国でありながら日本とリアルタイムでの共同開発が可能日本とフィリピンは時差が少ないため両国のエンジニアが共同で開発を進めることができ、それぞれの強みを活かした開発が可能になります。またコミュニケーションのタイムラグによるストレスが少なく、迅速かつ効率的な開発が可能であることも大きなメリットです。メリットその2:緊急時やトラブル発生時も迅速な連携・相談が可能開発時には不測の事態や緊急対応が必要な瞬間はつきものです。その際も日本とビジネスアワーが近く、リアルタイムでのコミュニケーションが取り迅速に対応することができ、被害を最小限に抑えることができます。メリットその3:開発の方向性の修正が容易遅延や不具合などのリスクもまた、オフショア開発にはつきものです。その際も現地の開発状況を日本からリアルタイムで確認することができるため、早期に発見が可能です。またフィードバックや修正の指示もリアルタイムに行うことができるため、開発の方向性を迅速に調整・修正することができます。フィリピンを選ぶメリット3:英語力の高さフィリピンオフショア開発の大きなメリットの1つがエンジニアの英語力の高さです。フィリピンの公用語は英語とフィリピノ語ですが職場では英語を使用するのが一般的です。そのためフィリピン人のIT人材は英語によるコミュニケーションに慣れています。オフショア開発では日本とフィリピンの間で頻繁にコミュニケーションが必要となりますが、英語が通じることで円滑なコミュニケーションを実現し、効率的に開発を進めることができます。グローバル展開を視野に入れた開発が可能フィリピン人エンジニアの英語力の高さは前述の通りですが、高い英語力によって英語を使用した製品やグローバルに展開するプロダクトの開発もスムーズに行うことができます。また英語力の高さとエンジニアにかかる費用の安さから近年グローバル案件の需要が急速に増加しています。このあたりの詳細はフィリピンを選ぶメリット5にて詳細に解説しています。フィリピンを選ぶメリット4:高いIT技術フィリピンを選ぶメリットの一つは、高いIT技術力です。近年、フィリピンはIT教育の充実と産業の発展を続け、多くの優秀なエンジニアを輩出しています。彼らは最新の技術トレンドに精通しており、国際的なプロジェクトにも対応できます。この高い技術力により、フィリピンはオフショア開発の注目拠点となっています。品質と効率を求める企業にとって、最適な選択肢と言えるでしょう。フィリピン政府による積極的なエンジニア育成フィリピン政府は、IT教育の充実を図るために公立・私立の学校におけるIT教育の強化に取り組んでいる他、IT関連の資格取得を支援する制度も整備しています。更にIT人材の育成を専門とする機関の整備にも積極的です。具体的には国立ITイノベーションセンター(NIITC)や、フィリピン国立大学(UP)のIT関連学部・大学院などの整備を進めています。IT人材の海外進出支援フィリピン政府はIT人材の海外進出を支援するために海外企業との連携や海外でのインターンシッププログラムの実施などの取り組みを進めています。こういった取り組みに加えて高い英語力、大学や専門機関でプログラミングやデータベースなどの基礎的な技術を身に着けているフィリピンのエンジニアは世界中から注目を集め、オフショア開発先として選ばれグローバルな案件にも多数携わっています。このような環境下でエンジニアの技術力は急速に上昇しています。多職種に比べて高いエンジニアの給料相場フィリピンの平均月収は約3.5万円ですが、エンジニアの平均月収は約11.9万円です。これはフィリピンの平均月収の3.3倍に相当します。このためエンジニアを目指す人材は高収入を得るための努力ができる人材が集まりやすく、エンジニアの技術力の高さにも繋がっています。フィリピンを選ぶメリット5:豊富な開発実績フィリピンを選ぶメリットの一つは、豊富な開発実績です。多くの国際的なプロジェクトに関与してきたフィリピンのエンジニアたちは、幅広い業界や技術領域での経験を持っています。この実績は、新しいプロジェクトの際の信頼性や安定性を保証するものとなります。フィリピンの開発チームは、その高い実績に裏打ちされた確かな技術力で、多くの企業の成功をサポートしています。フィリピンでのオフショア開発の歴史と特徴フィリピンのオフショア開発の歴史は1980年代に始まります。当時、フィリピンはアメリカの植民地だったこともあり英語が公用語として広く普及していました。また教育水準も高く、IT人材の育成が盛んでした。これらの背景からフィリピンは中国やインドに次ぐオフショア開発の拠点として注目を集めるようになりました。1990年代に入るとフィリピン政府はIT産業の育成を積極的に推進しました。そのためフィリピンのIT人材はさらに技術力を高め、世界中から注目されるようになりました。2000年代以降、IT人材の増加に加えてインターネットやIT技術の発展によりオフショア開発のコストパフォーマンスが向上しフィリピンのオフショア開発は急速に拡大しました。フィリピンのオフショア開発件数推移フィリピンを選ぶメリット3でも触れた通りフィリピンのエンジニアは英語が堪能で技術力も高いとため世界から注目されており、2022年時点で世界第3位のオフショア開発拠点となっています。またフィリピン商工会議所(PCCI)の調査によると、2022年のフィリピンのオフショア開発実績数は、前年の2021年と比べて12.5%増の1,500件となり、今後も右肩上がりに推移していくことが予想されます。2022年以降の動向高い技術力とコストパフォーマンスで世界から注目されるフィリピンは2022年時点で世界第3位のオフショア開発拠点となっており、IT人材は約100万人に達しています。今後もフィリピンのオフショア開発はコスト削減やスピーディーな開発を実現する手段として、多くの企業に活用されることが予想されます。フィリピンを選ぶ際のリスクと対策フィリピンを選ぶ際のリスクとして、言語や文化の違い、時差、自然災害の頻発などが挙げられます。対策としては、事前の文化研修やコミュニケーションの強化、適切なリスク管理の導入、バックアップ体制の構築などが考えられます。また、現地の情報を常に更新し、フィリピンのパートナー企業との連携を深めることで、リスクを最小限に抑えることが可能です。デメリットその1:自然災害フィリピンは日本同様、自然災害が多い国です。例えばフィリピンは台風の直撃を受けやすく毎年平均20個の台風が上陸するほか、環太平洋火山帯に位置するため地震が多く活火山も豊富です。こうした自然災害は人的・経済的被害をもたらす可能性があるため以下の対策によって被害を最小限に防ぎましょう。自然災害による被害を想定したバックアップ計画を策定する事前に開発拠点の立地と災害対策設備を確認するオフショア開発先企業が災害対策訓練を実施しているか確認するオフショア開発先企業がBCP(事業継続計画)(*1)を策定しているか確認するデメリットその2:政治腐敗や治安の悪化フィリピンの治安、政治腐敗は近年改善傾向にあるものの、依然として注意が必要です。これらはプロジェクトの進捗に大きな影響を与えるため常に情報収集をすることが大切です。政治腐敗フィリピンは政治腐敗が深刻な問題となっています。2022年の腐敗認識指数ではフィリピンは180カ国中117位と、依然として低い順位にランクされています。このような政治腐敗に対しては以下のような対応が有効です。開発会社が政治腐敗に加担していないか、確認する開発プロジェクトの契約書に、政治腐敗や政情不安によるリスクを想定した条項を盛り込む開発プロジェクトの進捗状況を定期的に確認し、不正の兆候がないかを監視する治安の悪化フィリピンでは治安の悪化が懸念されており、2022年には殺人や強盗などの犯罪件数が増加しています。こうした問題には以下のような対策を講じることでスタッフの安全を守ると同時にプロジェクトの遅延を防ぐことができます。開発プロジェクトの拠点の治安状況を把握する開発プロジェクトのスタッフの安全を守るための対策やルールを設けるデメリットその3:英語は堪能だが日本語が話せる人材は少数フィリピンのIT人材の多くは英語でのコミュニケーションに長けていますが日本語が話せるエンジニアは多くありません。フィリピンのビジネスシーンでは原則的に英語が使用されるため、自社の英語が堪能な人材をフロントに立てられるのであればブリッジSEを探す必要はありません。しかしそのような人材がいない場合は専門の会社にブリッジSE依頼するとよいでしょう。デメリットその4:納期遵守意識や品質管理基準の違いフィリピンは日本に比べて時間にルーズな傾向があり、品質基準に関しても甘い傾向があります。納期遅延を防ぐための対策としては進捗管理をこまめに行う、品質管理のためには要件を明確にしたうえで仕様書に要望を詳細に記載して実装状況も確認する・日本側でもテストを実施するなどが有効です。デメリットその5:文化の違いフィリピンは日本に比べて家族を優先する傾向があります。このため急な欠勤にも対応できる情報共有の仕組みを作ったり、必要に応じて人員を増員できる体制を作っておくとよいでしょう。(*1)BCPとは、Business Continuity Planの略で、事業継続計画を指し、災害や事故などの緊急事態が発生した場合に、事業の継続や早期復旧を図るための計画です。まとめ以上がフィリピンのオフショア開発についてのメリットとデメリット及びその対策方法となります。フィリピンのエンジニアは英語力に加えて技術力も高いにも関わらず単価相場が安いのが大きな特徴であり魅力です。これに加えて物価の安さや政府による税制優遇、時差の少なさを活用したリアルタイムでのコミュニケーションを実現できるのもオフショア開発をするうえでは大きなメリットです。しかし同時に自然災害の多さや政情不安に加えて言語の壁や日本と異なる納期や品質基準への認識といった課題もあります。こうした課題に対しては事前準備や適切な対応を行うことでプロジェクトを成功に導くことができます。本記事を読んでくださった皆様のオフショア開発が成功することを心より祈っています。