海外システム開発は市場拡大やコスト削減など多くのメリットがある一方で言語や文化の違いなどデメリットも存在します。本記事では、プロジェクトを成功するためのポイントを押さえるために、海外開発についてのメリット・デメリットや適切な開発設計書の作成や海外での消費税といった具体的な事項についてなど理解すべき事項についてまとめました。効果的な海外システム開発を実現するために、本記事を是非ご活用ください。海外システム開発のメリットとデメリット海外システム開発のメリット日本の企業が、海外システム開発を利用する場合の大きなメリット3点をご紹介します。開発コストの削減人件費の安い国で開発を行うことで大幅なコストダウンが期待できます。効率的なプロジェクト進行/納期の短縮時差を利用して24時間体制での開発が可能になるため、プロジェクトの進行速度を上げることができます。技術力の向上海外の開発会社には最新の技術やスキルを有するシステムエンジニアが多く在籍しています。こういったシステムエンジニアとの協業を通して海外の技術やスキルを吸収し、自社の技術力向上にも繋げることができます。海外システム開発のデメリットシステム開発を海外に委託することには多くのメリットがあると同時に以下のようなデメリットもあります。両者を理解した上でデメリットに対しては適切な対策をすることで海外でのシステム開発を成功に導きましょう。コミュニケーションの難しさ言語や文化の違いによるコミュニケーションの難しさは海外でのシステム開発の最大のデメリットと言えるでしょう。仕様書の作成や進捗管理などによってコミュニケーションを密に行うことが重要です。品質や納期の管理の難しさ時差や距離、文化の違いによるコミュニケーションの難しさから品質や納期の管理が難しい場合があります。開発会社との綿密なコミュニケーションと適切なリスク管理が求められます。セキュリティのリスク海外の開発会社に開発を委託する場合、セキュリティのリスクを考慮する必要があります。開発会社が適切なセキュリティ対策を講じているかどうかを事前に確認しておきましょう。海外と日本のシステム開発の違いについて日本とアメリカのシステム開発手法の比較開発手法においては日本はウォーターフォール型が主流である一方、アメリカはアジャイル型が主流です。ウォーターフォール型開発とは開発工程全体を「要件定義」>「基本設計」>「詳細設計」>「開発(プログラミング)」>「単体テスト」>「結合テスト」>「総合テスト」>「システム導入」の複数フェーズに分割し、時系列に沿って各フェーズを順番に進めていくシステム開発手法です。この手法の特徴としては以下の3点が挙げられます。各工程を完了してから次の工程に進む仕様変更を最小限に抑えて品質を担保するスケジュールやコストの見積もりを立てやすい一方、アジャイル型開発は計画段階では厳密な仕様や要求を決めず、開発時に「計画」>「設計」>「実装」>「テスト」を小さな単位で繰り返し行いながら仕様や要求を固める手法で、この方法には以下の特徴が挙げられます。開発単位を細かく区切り、短いサイクルで開発をおこなう開発の区切り毎にユーザーのフィードバックを取り入れて変化に柔軟に対応するチームワークを重視するアメリカもかつてはウォーターフォール型開発手法を採用していましたが現在ではアジャイル型が主流である一方、日本は変わらずウォーターフォール型がメインです。このような違いが生まれた大きな要因としてシステムエンジニアの働き方と文化の違いが考えられます。日本のシステムエンジニアはSIer勤務が主流で全体の7割程度がSIer企業に勤務しています。即ち発注者(システム利用者)とシステムエンジニアの関係は顧客と取引先の関係が主流です。このため開発スケジュールや費用の見積もりを立てやすく、設計フェーズで成果物の合意形成を行った後の開発期間中は顧客は本来の業務に、エンジニアは開発に専念できるウォーターフォールが双方にとってメリットが大きく好まれる傾向にあるのかもしれません。一方、アメリカのシステムエンジニアはユーザー企業勤務が約7割と日本と逆転しています。この状況では、発注者もシステムエンジニアも同じ社内の人間である場合が多いため外部に発注する場合程は納期にシビアになる必要がありません。なおかつ、同じ会社という共通のコミュニティに属していることからフィードバックの場を設けやすく連帯感が生まれやすいという環境下であるためアジャイル型開発手法が採用されやすいといえるのではないでしょうか。更に文化の違いについても日本のシステム開発では品質を重視する傾向があるのに対してアメリカではスピードを重視する傾向があります。このため日本では事前に開発工程を綿密に設計して品質の基準を明確にしてから開発を進めるウォーターフォール型が採用され、アメリカでは開発後直ちにユーザーからフィードバックを受けて修正のサイクルを短期間のうちに繰り返せるアジャイル型開発手法が主流となっていると考えられます。海外と日本のシステムエンジニアの求人情報昨今は変わりつつあるとはいえ日本の求人では人材を雇ってから研修や業務によって経験やスキルを身に着けていく、即ち雇ってから育てるメンバーシップ型雇用がまだまだ主流です。システムエンジニア業界においては比較的この傾向は弱いとはいえ、新卒採用や若手向けの求人では未経験者を一から教育するメンバーシップ型雇用の求人も多く見受けられます。一方、欧米では職務が発生した際に既にスキルを持つ人を雇うジョブ型雇用が一般的で、システムエンジニアもその時必要な技術を持つ人材の求人が出され、その職務が不要となれば解雇されることも自然なようです。一言でいうと人に仕事を付けるのがメンバーシップ型雇用、仕事に人を付けるのがジョブ型雇用です。なぜ日本のシステム開発が厳しいと言われるのか日本のIT業界の大きな課題がシステムエンジニアの不足です。この傾向は少子高齢化が進む日本においては長期に渡る課題となることは間違いないでしょう。この人材不足によって2つの問題が起こると予想されています。1点目はシステムエンジニアの負担の増加です。人材不足によって一人当たりの業務量は増えることによる残業の常態化やそれによる離職率の上昇、それにより残っているエンジニアの負担がにさらに増加するという悪循環に陥る可能性があります。2点目はIT技術のレガシー化です。システムエンジニアが不足することで、バージョンアップや新しいシステムの開発などに人材を投入できなくなり、古いシステムを使い続けざるをえなくなりレガシー化していくことが予想されます。既存のシステムを使い続けると、セキュリティ面の脆弱性や、新しくサービスを導入する際に互換性が担保されないことなどのリスクが懸念されます。海外システム開発に成功するためのポイントコミュニケーションの重要性海外とやりとりする上で最初の壁といえるのが言語です。プログラミング言語は共通ですが仕様書の理解や細かな意思疎通となるとプログラミング言語だけでは不十分なため日本と海外両方の言語と文化に精通した人材に間に立って両者を繋いでもらうとプロジェクトの成功率が上昇します。このようなシステムエンジニアをブリッジSEと呼びます。ブリッジSEは日本あるいは海外の開発会社のSEが担当する場合もありますが、両社に充分なスキルを有する人材がいない場合は専門の会社に依頼することもできます。文化差の理解と対応コミュニケーションに次いで大切なことが文化の違いに対する理解です。例えばインドでは仕事よりも家族を優先する傾向があるため日本人に比べて気軽に家庭の事情で仕事を休む傾向があります。このような文化背景の国では納期が近い案件や重要な案件に関しては急な欠勤にも対応できる情報共有の仕組みを作ったり人員を増員できる体制を作っておくとよいでしょう。更に異なる文化圏の間では暗黙の了解も通じないと考えたほうがよいでしょう。仕様書に記載のない事項は実装されないものと考えて詳細に記載することをオススメします。適切なプロジェクト管理プロジェクトを円滑に進めるうえで大切なのが綿密な事前準備と開発期間中の管理・監督です。認識齟齬を防ぐために仕様書には実装してほしい内容を抜け漏れなく記載し必要に応じて翻訳しておきましょう。また開発に入ってからも海外のシステムエンジニアとこまめにやりとりし、タスクの進捗状況を確認するとよいでしょう。くわえて、海外のシステム会社に開発を依頼する際には海外の会社が実施するテストに加えて自社でもテストを実施してシステムの品質を担保しましょう。海外でのシステム開発設計書の作成方法海外のソフトウェア設計書の特徴海外のソフトウェア設計書は非エンジニア層や異なる文化圏の人にも伝わるようわかりやすさを大切にしている他、認識の齟齬(そご)が起きにくい表現を意識して作成されている傾向があります。具体的には以下のような特徴が挙げられます。図や表が多い海外の設計書では図や表を多用してシステムの設計をわかりやすく表現する傾向があります。視覚的にもわかりやすく表現することで開発者だけでなく、ユーザーや経営者などの非システムエンジニアにもシステムの設計を理解してもらいやすくなります。国際標準を採用する海外ではソフトウェア設計において国際標準であるISO/IEC 12207やISO/IEC 42010などの規格を採用するケースが多いです。これらの規格を採用することで、文化圏の異なる関係者間の認識齟齬が起きるのを防ぎ、国際的なプロジェクトでも円滑にコミュニケーションを進めることができます。例えばアメリカのソフトウェア設計書では、UML(Unified Modeling Language)と呼ばれる図記法がよく使われます。UMLは、システムの設計を図や表で表現するための言語です。またイギリスのソフトウェア設計書では、MoSCoW(Must、Should、Could、Won't)という優先度付けのフレームワークがよく使われます。MoSCoWは、システムの機能や要件を、必須、重要、望ましい、不要の4つのレベルに分けて優先順位付けするものです。日本の設計書と海外の設計書の違い日本と海外の設計書のは以下2点が大きく異なります。仕様書と設計書の形式日本では仕様書と設計書を統合して作成するケースが多いのに対して海外では仕様書と設計書を分けて作成するケースが主流です。仕様書はシステムの機能や要件を定義した文書であり、設計書は仕様書に従ってシステムを設計した文書です。仕様書と設計書を分けて作成することで、仕様書の変更による設計書の変更を抑制することができます。設計書の内容の粒度日本では設計書を簡潔に作成するケースが多いですが、海外では詳細に作成するケースが多いです。海外では開発の効率を高めるために暗黙の了解の部分を極力減らして設計書を詳細に作成することで開発者間でのコミュニケーションを円滑に進めているのです。海外でのシステム開発と消費税について海外のシステム開発における消費税の取り扱い原則として海外の開発会社にシステム開発を委託する場合は消費税の課税対象外となります。ただし、以下の場合には、消費税が課税される場合があります。開発会社が日本国内に事務所や事業所を有している場合開発会社が日本国内で事業活動を行っている場合開発会社が日本国内で消費する目的でシステムを開発する場合 海外に所在する開発会社に対してシステムの開発を委託する場合であっても、海外に所在する事業者が提供を行う「電気通信利用役務の提供」のうち、「事業者向け電気通信利用役務の提供」である場合には、リバースチャージ方式により、国内の事業者が消費税を申告・納付する義務を負う場合があります。リバースチャージ方式とは、海外に所在する事業者が消費税を課税・徴収する代わりに、国内の事業者が消費税を申告・納付する方式で、日本法人が海外法人にシステムの開発を委託する場合が適用されます。海外での開発において、消費税が課税されるかどうかを判断する際には、以下の点に留意する必要があります。開発会社の所在地開発会社の事業内容システムの利用目的 また、消費税の課税対象となった場合には以下の点に留意する必要があります。消費税の申告・納付手続き消費税の控除手続き 消費税の取り扱いを誤ると不利益を被る可能性があります。そのため消費税の課税対象となるかどうかを正しく判断し適切な対応をすることが重要です。消費税の課税対象となる可能性を減らすためには、以下の点に留意するとよいでしょう。開発会社との契約書に開発会社が日本国内に事務所や事業所を有していないこと、日本国内で事業活動を行っていないこと、日本国内で消費する目的でシステムを開発していないことを明記する。開発会社に対して消費税の課税対象となるかどうかを事前に確認する。開発会社に対して消費税の課税対象となる場合には、リバースチャージ方式により消費税を徴収する旨を記載した契約書を交わす。以上のように説明してきましたが消費税の取り扱いは複雑なため、海外に開発を委託する際は事前に専門家に相談することをお勧めします。日本だけの消費税システムと海外の違い海外にも消費税は存在しますが、以下のような点で違いがあります。課税対象日本では国内で提供される財貨・役務の提供に対して消費税が課税されますが海外では国によって課税対象となる範囲が異なります。例えばアメリカでは、日本と同様に国内で提供される財貨・役務の提供に加え国内で消費される目的で輸入される財貨に対しても消費税が課税されます。税率日本の消費税率は2023年7月1日現在で10%です。一方海外では国によって税率が異なり、アメリカのように州によって消費税率が異なる国も存在するため注意が必要です。申告・納付日本の消費税は事業者が申告・納付する仕組みになっています。一方海外では、国によって申告・納付の仕組みが異なります。事業者が申告・納付する仕組みに加えて消費者が申告・納付する仕組みも存在します。アメリカのように州によって申告・納付の仕組みが異なる国もあるため事前に調べておくとよいでしょう。リバースチャージ方式日本では、海外に所在する事業者が提供を行う「電気通信利用役務の提供」のうち、「事業者向け電気通信利用役務の提供」に限り、リバースチャージ方式が適用されます。一方、海外では国によってリバースチャージ方式が適用される範囲が異なります。海外でビジネスを行う際には、消費税の課税対象となる範囲や税率、申告・納付の仕組みなどを事前に確認しておくことが重要です。まとめ海外の企業へのシステム開発委託には大きなメリットがあるだけでなくデメリットも存在します。しかし大きく以下の点に気を配ることで成功する確率が飛躍的にアップします。皆さんのシステム開発の成功をお祈りしています。こまめなコミュニケーションと文化差への理解海外企業と協業する際には言葉の違いのみならず文化差への理解が大切です。互いの文化の違いを共有しあうことで納期遅延や認識齟齬などのトラブルを未然に防ぐことができます。適切なプロジェクト管理海外との打ち合わせは開発前の事前準備期間に加えて開発中もこまめに行い進捗確認・管理を行いましょう。またテストも海外に任せきりではなく日本でも実施しましょう。ソフトウェア設計書設計書作成時には日本だけで使用する際には記載しないような暗黙の了解の部分も明記し、できるだけ詳細に国際標準で記載しましょう。図や表の使用も視覚的にも伝わりやすいため有効です。消費税の取り扱い海外と日本では消費税の課税対象が異なる他、申告・納税方法が異なる場合があるため取引開始前に調査をしておきましょう。