近年注目を集めている、「ラボ型開発」についてご存じでしょうか?ラボ型開発は「オフショア開発」の一種であり、従来の「請負型開発」とは異なり、柔軟な仕様変更などが可能な開発方法です。この記事では、「ラボ型開発」とはなにか、導入にあたってのメリット・デメリット、そして成功事例などを詳しく解説します。どのようなプロジェクトがラボ型開発に向いているのか、ラボ型開発を採用するにあたっての注意点なども合わせて解説しているので、ぜひ参考にしてください。ラボ型開発とは?ラボ型開発(英語:Lab-type Development)を解説するにあたって、まずはオフショア開発について解説します。オフショア開発とは、システム・アプリ開発や、システム運用・保守、ソフトウェア等の開発業務を、コストを抑えるために海外の国・地域の企業や法人に委託する手法です。オフショア開発の主な目的は、委託元である日本と、開発側である海外の経済的格差によって生じるコストメリットにあります。そして、このオフショア開発には主に、「請負型開発」と、今回解説する「ラボ型開発」の2つの形態があります。「ラボ型開発」とは、一定期間にわたり開発のための専属チームを確保し、開発者がクライアントのプロジェクトチームの一部となり、委託元の指示で開発を行う開発手法です。別名「ラボ契約」「オフショア開発センター(ODC:Offshore Development Center)」などとも呼ばれています。ラボ型開発を活用することで得られる効果としては、契約期間におけるエンジニアの確保や、外注では難しい自社での経験・ノウハウの蓄積などが挙げられます。ラボ型開発では、特定の業務・行為に対して報酬が発生する準委任契約として、3カ月〜1年ほどの期間を設定して契約を締結するのが一般的です。また、ラボ型開発では、委託元が委託先のプロジェクトマネージャーやブリッジSE(橋渡し役のエンジニア)などと直接やり取りする役割を担う点に特徴があります。ここでのやり取りを通して、具体的な開発業務を指示します。なお、契約期間内であれば、プロジェクトの内容・進捗状況などに応じて各種変更(例:仕様変更、機能追加など)を行うことも可能です。開発を成功するために必要なブリッジSEとの関わり方を、以下記事で解説していますので併せてご確認ください。ブリッジSEとは?仕事内容と成功するための関わり方を解説また、オフショア開発全般について詳しく知りたい場合は、以下の記事をご確認ください。オフショア開発とは?活用される背景や目的、メリット・デメリットを解説ラボ型開発のメリット・デメリット本章では、ラボ型開発の活用にあたって生じる可能性のある主なメリット・デメリットを順番に取り上げます。「ラボ型開発」のメリット4つまずは、ラボ型開発の活用によって期待されるメリットの中から、代表的な4つをピックアップし、順番に解説します。メリット1)契約期間終了までエンジニアを確保できるラボ型開発では、契約期間中、自社専属のエンジニアチームを確保できます。契約期間内であれば継続的に案件を発注できるため、案件ごとにプロジェクトを再編成したり、一から情報共有を行ったりする手間がかからず効率的です。メリット2)仕様変更・修正などに柔軟に対応できるラボ型開発では、途中の仕様変更や修正などにも柔軟に対応できる点も魅力的なメリットです。オフショア開発の契約形態の1つである「請負型開発」(詳しくは「ラボ型開発と請負型の違い」にて解説します)では、ラボ型開発とは違い、要件定義・人件費・設計費などを決めたうえで業務委託を行うため、途中での仕様・リソースの変更は基本的に不可能です。これに対して、ラボ型開発であれば、プロジェクトが確定する前で、仕様変更が発生しやすい開発でも安心して進めることが可能です。また、契約期間内であれば、追加費用などの細かな調整も求められず、自由にリソースを使用できるのが一般的です。以上のことから、ラボ型開発は、開発しながらプロジェクト・仕様などを決めていきたい場合に特に適している業務委託方法だといえます。メリット3)自社で経験・ノウハウを積み重ねられるラボ型開発には、自社専属の開発チームを一定期間にわたり確保できるという特徴から、自社にシステム・ソフトウェア開発の経験・ノウハウを積み重ねられるメリットが期待できます。自社に経験・ノウハウが積み重なれば、開発スピードの向上やチーム間コミュニケーションの円滑化など、システム・ソフトウェア開発にポジティブな影響を及ぼす可能性があります。メリット4)コストを抑えやすいラボ型開発はコストを抑えやすいという特徴があり、これはラボ型開発最大のメリットともいえます。ラボ型開発の委託先として選ばれるのはベトナムなどの東南アジア諸国が多く、これらの地域に委託した場合、日本で開発のチームを雇う費用の50〜30%程度のコストに抑えられるといわれています。「ラボ型開発」のデメリット2つ続いて、ラボ型開発の活用によって生じるおそれのあるデメリットの中から、代表的な2つをピックアップし、順番に解説します。デメリット1)チームビルディングに時間を要するラボ型開発の委託元は、チームの一員としてメンバーの人選や開発の指示などを行います。具体的にいうと、開発内容や自社の文化などの要素を考慮しつつ、その分野に特化した人材を選んでチームを構築しなければなりません。また、完成品の仕様にズレを生じさせないために、メンバーに細かく指示したり、レクチャーを行ったりすることも求められます。さらに、委託元は、中長期的にコミュニケーションがスムーズに進むように、チームの環境を整備する役割も担います。こうしたプロセスを通じて、チームの構築から実際に開発をスタートさせるまでには、半月〜3カ月ほどの時間がかかると考えられています。とはいえ、開発チームとのミスマッチは開発のクオリティに深刻な悪影響を与えるため、スケジュールにゆとりを持ちながらラボ型開発のチームビルディングを行っていくことが大切です。デメリット2)チームの維持にコストが発生するラボ型開発では、一定期間にわたりチームを確保できる点に魅力がある反面、案件がない期間や開発が予定よりも早期に完了してしまった場合でも、契約期間内であればコストが発生してしまい、かえって割高になってしまいます。委託する案件が存在しないにも関わらずチームを維持するコストがかかってしまうと、本来あったはずの「コストが抑えられる」というラボ型開発のメリットが十分に発揮されなくなるおそれがあります。コストを抑えるためには、案件状況を長い目で確認しておくことが大切です。ラボ型開発と請負型の違い前述したように、オフショア開発の契約形態には、「ラボ型開発」の他に、「請負型開発」という形態があります。この章では、「請負型開発」について解説し、「ラボ型開発」との違いについても説明します。「請負型開発」とは?請負型開発とは、委託元が発注した仕様・要件にもとづき開発し、契約時に定めた納期までに成果物を納品する契約形態のことです。請負型開発は仕様や納期が明確であり、委託元は期限までに確実に成果物を手にすることが出来ます。よって、コストと時間の予測がしやすいことが最大のメリットです。「ラボ型開発」と「請負型開発」の違い - 「ウォーターフォール型」と「アジャイル型」請負型開発は「ウォーターフォール型」で進められることが多いです。ウォーターフォール型とは、初期に多くの時間をかけて、サービス・開発の範囲を全て企画・定義したうえで設計・実装・テスト・納品し、リリースを目指す開発形態のことです。それぞれの工程が終わると次の工程に進行し、前の工程には戻りません。このことから、委託元は開発プロセスにそれほど関与しません。ウォーターフォール型については以下記事で詳細に解説しておりますので、さらに詳しく特徴や工程などを知りたくなった方は併せてご確認ください。ウォーターフォール型開発とは?工程やメリット・デメリットを解説これに対して、ラボ型開発では、「アジャイル型」で用いられることが多いです。アジャイル型とは、設計・企画・テスト・実装を短期間で行い、その一連のサイクルを繰り返しながらリリースを目指す開発形態のことです。アジャイル型では、ウォーターフォール型とは違い、委託元が開発プロセスに積極的に関与するため、要望・仕様の変更が発生した場合でも柔軟に対応できます。また、オフショア開発で発生しやすいコミュニケーション不足の課題を解消しつつ、安定的に開発を進めていくことが可能です。ラボ型開発を始めるにあたって結ぶ契約(ラボ契約)と請負契約の違いについて、以下記事で詳細に解説しておりますので、より詳しく知りたい方はご覧ください。ラボ契約(ラボ型開発)とは?請負契約との違い、メリット・デメリットラボ型開発が向いているプロジェクトここまで紹介したメリット・デメリットや請負型開発との違いなどを踏まえると、ラボ型開発が向いているのは、主に以下のようなケースです。業務委託したい開発案件が定期的に発生するケース途中で仕様変更・修正などが生じる可能性のあるケース業務委託したい案件が定期的に発生するケース業務委託したい案件が定期的に発生する(例:既存のWebサービス・アプリを運営している)ケースでは、ラボ型開発が適しています。なぜなら、ラボ型開発では、契約期間中、自社専属の開発チームを確保できるためです。契約期間中であれば、このチームに継続的に案件を発注できるため、案件ごとにプロジェクトを再編成したり、一から情報共有を行ったりする時間・手間・ストレスなどに悩まされることはありません。これに対して、開発案件が定期的に発生している企業で請負型開発を選んでしまった場合、案件ごとに依頼先を選んだうえで依頼内容を説明し、見積もりを取って契約書を交わす必要があります。また、企業ごとに開発プロセス・ルールなどが異なるため、そのすり合わせ・確認連絡などにも多くの時間・手間がかかりやすいです。途中で仕様変更・修正などが生じる可能性のあるケースプロジェクトの進行途中で仕様変更・修正などが発生する可能性があるケースも、ラボ型開発が適しています。なぜなら、ラボ型開発の場合、契約期間中であれば、追加費用を求められずに対応してもらえるためです。さらに、ラボ型開発の中でもアジャイル型を用いれば、委託元が開発プロセスに積極的に関与するため、仕様変更・修正が生じた際に柔軟かつ適切な対応が期待できます。ラボ型開発の注意点ラボ型開発を活用する際に押さえておくべき注意点を2つピックアップし、順番に解説します。開発会社の実績・経験をチェックするラボ型開発を導入する前に、委託先となる開発会社に十分な実績・経験があるのか、しっかりとチェックしておきましょう。併せて、自社が業務委託を行いたい開発案件のジャンルと、開発会社側が得意とする開発案件のジャンルをすり合わせておくことも大切です。こういったすり合わせをしないまま開発に着手した場合、かえって開発に時間がかかり、コストもかかるので、注意が必要です。コミュニケーション体制を確認するラボ型開発の成功を目指すためには、開発チームと綿密にコミュニケーションを取ることが大切です。ラボ型開発では海外に自社専属の開発チームを持つことになるため、やりとりを行う手段やミーティング・フィードバックの実施頻度など、コミュニケーションルートをあらかじめ確認しておく必要があります。ラボ型開発と同じ「準委任契約」であるSESとの違いは?ラボ型開発と同じ契約形態である「SES(System Engineering Service)」は、しばしばラボ型開発と混同されやすいです。ラボ型開発とSESはともに「準委任契約」に該当しますが、開発する場所に違いがあります。ラボ型開発は開発チーム側のオフィスなどで開発をおこないますが、SES(常駐型開発)は基本的に委託元の企業の内部にチームやエンジニアが常駐して、開発を進めます。また、おおまかな作業内容にも違いがあり、一般的に、ラボ型開発は中長期に渡る特定のプロジェクトのために開発業務に携わりますが、SESは長期的に日常的な開発業務やサポートを提供することが多いです。SES契約について詳しくご確認いただく場合は、下記の記事も合わせてご参照ください。SES契約とは?契約内容や注意点、請負契約・派遣契約との違いも解説なぜ今「ラボ型開発」が注目されているのか?なぜ「ラボ型開発」が注目されているのでしょうか。理由は大きく分けて2つあります。近年のデジタル変革に対応できる開発方法だから近年、デジタル変革が進み、企業のシステム開発に対する要求は高度化・複雑化しており、従来の請負型開発だけでは対応しきれない案件が増えています。しかしラボ型開発なら、委託元と開発会社が共に検討、議論しながら開発を進めるので、市場のニーズに迅速に対応した開発が可能です。また、こういった検討・議論の末にリリースされた製品は品質も向上するので、ユーザー満足度の向上につながります。日本国内のIT人材が不足しているから近年、日本国内のITエンジニアは不足傾向にあり、総務省の「令和3年版 情報通信白書」によると、IT人材の量について、「大幅に不足している」又は「やや不足している」という回答の合計は、89.0%に達しています。このように、IT人材不足の中で多くの会社で「ITエンジニアが採用できない」といった悩みを抱えており、そういった背景から、ラボ型開発は、日本国内のIT人材不足課題を解消する手段のひとつとして注目されています。まとめ以上、「ラボ型開発とは?メリット・デメリット、請負型との違い、注意点を解説」でした。オフショア開発の中でも近年注目を集めている「ラボ型開発」は、フレキシブルな開発が求められるプロジェクトに適した開発方法であるという点をご理解いただけたかと思います。