開発リソースとは?開発リソースとは、開発プロジェクト全般で幅広く使用されている概念ですが、本記事では「システム開発のプロジェクトにおいて、目標達成のために活用されるさまざまな資源」と定義します。例えば、人員や資金設備などが開発リソースに該当します。開発リソースには、主に以下のような種類があります。人的リソース:プロジェクトチームのメンバー・スタッフや外部コンサルタントなど、システム開発の遂行に関与する人々のこと。財務リソース:システム開発に必要な資金のこと。物的リソース:システム開発において必要な設備・機器・技術・インフラなど物理的な要素のこと。情報リソース:システム開発で利用されるデータ・知識・専門技術・市場情報などのこと。時間リソース:システム開発に必要な期間やスケジュールのこと。開発リソースを効果的に管理することで、ビジネスの競争力が向上し、プロジェクトの成功率を高められます。リソース管理を継続的に見直し、最適化を行うことが重要です。開発リソースの不足による影響昨今、システム開発の現場において、開発リソースの不足が頻繁に話題に挙がっていますが、実際に開発リソースが不足するとどのような影響が及ぶのでしょうか?本項で詳しく解説します。開発リソースの不足がもたらす影響は、主に以下の4つです。従業員の離職率が上がる開発リソースのうち人的リソースが不足していると、個々の従業員に大きな負担がかかります。本来であれば複数人で担当すべき業務を、1人で担わなければならなくなるケースもあるでしょう。こうした状況では肉体的・精神的な負担が増加するだけでなく、モチベーションの低下を招きます。 労働環境が悪化したことを理由に、従業員が離職を決意するケースも珍しくありません。もしも従業員が離職してしまえば、残されたスタッフにさらに大きな負担がかかるようになります。人的リソースだけでなく、財務リソースや物的リソースなどが不足している状況でも、従業員のモチベーションが低下し、離職率が高まる傾向があります。生産性が低下する人的リソースが不足していると、システム開発の現場で本来必要とされる人員を投入できず、生産性が低下します。これに伴い、プロジェクトの遅延や品質低下などの悪影響が及ぶおそれがあり、結果として売上・利益の減少につながるでしょう。人的リソースのほか、ITツール・アプリ・デバイスなどの物的リソースが不足している環境下でも、生産性が低下しやすいです。具体例を挙げると、顧客管理システムを利用せずに手動ですべての顧客情報を管理しているといった状況では、業務の進行が非効率的であるうえに、従業員に過度な負担がかかってしまいます。開発スピードが上がらない人的リソースや物的リソースの不足は、生産性が低下するだけでなく開発スピードが落ちる要因にもなります。開発スピードを上げられないと、市場の変化やニーズに十分に対応できず、新たなビジネスチャンスを逃すおそれがあります。最悪の場合、事業の収益性に悪影響が及びかねません。競争力のあるサービスを作れない市場のニーズに応える今までにない製品やサービス、または競合他社よりも優れたものを開発をする場合、往々にして開発の難易度が高いため、技術力のあるエンジニアの力が必要になります。それも一人で良いわけではなく、作ろうとするものにもよりますが、複数人必要な場合がほとんどです。また、エンジニアをまとめ上げるプロジェクトリーダーやプロダクトマネージャーも必要になります。開発リソースが不足している状態では適切な人数・人員を開発に割り当てることができず、競合優位性のあるサービスを思い付いても、作れない可能性が高まります。変化が激しく、アイデアはすぐに模倣されるIT業界においては、開発リソースは競争力の源泉と言っても過言ではありません。開発リソースが不足する原因開発リソースが不足する主な原因は以下のとおりです。IT人材の不足予算不足不適切なプロジェクト管理それぞれの原因を順番に詳しく解説します。IT人材の不足システム開発に必要なスキルや専門知識を持った人材が不足している場合、開発リソースの不足につながります。現在の日本では、高齢化と若年層の人口減少に伴い、IT人材の数が減少し続けている状況です。経済産業省の報告によると、2030年の時点で40~80万人の規模でIT人材の不足が生じる懸念があると試算されています。IT人材の不足は今後とも深刻化していく見込みです。中でも、高度な技術が求められるシステム開発を担える、質の高いIT人材の確保が難しい状況が目立っています。参考:経済産業省「IT人材育成の状況等について」予算不足システム開発に割り当てられる予算が不足している場合、十分な開発リソースを確保できないおそれがあります。予算不足は、人件費だけでなく、ハードウェアやソフトウェアの購入費用・外部サービスの利用費用などにも悪影響を及ぼしかねません。システム開発を効率化できるツールやシステムを導入できない場合、必然的に生産性が低下します。個々の従業員にかかる負担が大きくなれば、モチベーション低下にもつながります。不適切な開発手法自社のシステム開発に適さない開発手法を採用していることも、開発リソースが不足する原因のひとつです。システム開発の主な手法には、「ウォーターフォール型開発」と「アジャイル型開発」の2種類が挙げられます。システム開発を行う際は、それぞれの開発手法のメリットとデメリットを十分に把握したうえで、自社の開発に適した手法を取り入れないと、人的リソースや財務リソースなどを効率的に使用できず、開発リソース不足に陥るおそれがあります。例えば、品質の安定性に定評があるウォーターフォール型開発は、仕様変更を前提としないシステムを開発する場合に適しています。スケジュール管理が行いやすいため、コンピューターのOSといった大規模な開発プロジェクトにも向いているでしょう。一方で、完成形がイメージしにくい開発プロジェクトの場合、ウォーターフォール型開発は向いていません。向き不向きを以下記事で詳しく解説しています。ウォーターフォール型開発とは?工程やメリット・デメリットを解説これに対して、アジャイル型開発は、システムを素早く開発できるうえに、途中からの仕様変更・修正に対応しやすいことから、以下のようなシステム開発に適しています。市場の反応を見ながら成長させたいサービスの開発市場動向が予測しにくく、ライフサイクルが早いプロダクトの開発ただし、アジャイル型開発は方向性がブレやすいため、大規模なシステム開発には向いていません。それぞれの開発手法の特徴を踏まえて、自社のシステム開発に適した手法を導入しましょう。開発リソースを解消する7つの方法開発リソースが不足している原因として特に大きいのは、質が高く即戦力となる人材が不足していることだと考えられています。人的リソースの不足に悩まされている企業では、「量」ではなく「質」を重視して人材の獲得を図らなければ、開発リソースの解消にはつながりません。なぜなら、質にこだわらずにただやみくもにIT人材を獲得しても、即戦力としてシステム開発の現場で活躍してもらうには育成を行わなければならず、それには大きな手間・コストがかかるためです。以上の点も踏まえて、ここからは開発リソースを解消するために役立つ方法を7つ解説します。①開発リソースの最適化新たに人材を採用する前に、まずは現状の開発リソースを最適化することが望ましいです。これは、開発メンバーの稼働状況やスキルを可視化し、発見された余剰ソースを活用して開発リソースの最適化を図る方法です。成功すれば、新たな人材を増やすことなく、開発リソース不足に伴う問題点を解消できる可能性があります。開発リソースの最適化を図る際は、各開発メンバーについて、どのような業務を実施していて、どれほどの作業負荷がかかっているのか把握しましょう。また、チーム全体のスキルを可視化し、効率的に連携できているかチェックすることも大切です。そのほか、開発リソースの最適化を目指すうえで、開発プロセスを効率化するツールの導入も効果的です。ただし、新たなツールの導入には費用がかかるうえに、現場のスタッフがツールの使用に慣れるまでに時間がかかるため、財務リソースや時間リソースに余剰がある場合に検討すべき方法といえます。②人材育成現在抱えている人材を育成することで、人的リソースを最適化し、開発リソース不足に伴う問題を解消していく方法もあります。人材育成では、新たに人を採用する場合よりも費用を抑えられるメリットがある一方で、育成に多くの時間がかかったり、効果的な育成を行うためには研修やOJTなどのノウハウが求められたりする点に注意が必要です。③採用人的リソースが不足している場合、新たな人材を採用する方法が取られることも多いです。この方法では、スキル・知識が備わっていて、即戦力として活躍できる人材を見つけ出す必要があり、短期間で成果を出すことが難しいといえます。また、昨今はIT人材の獲得競争が激化しており、採用コストが高騰しています。そのため、開発リソースが不足している中で、優秀なIT人材を新たに採用することは決して容易ではありません。④SESSESとは「システムエンジニアリングサービス」のことで、システムの開発・保守などの業務を外部に依頼するものです。SESを提供する企業は、技術的なスキルや専門知識を持ったエンジニアを多数抱えています。そのため、SESを活用すれば、自社で採用や育成を行う必要なく、システム開発の即戦力となる人材を迅速に確保できるでしょう。また、SESでは、プロジェクトの規模や期間に応じて必要な人数のエンジニアを柔軟に調整できます。これにより、人件費を最適化でき、開発リソース不足の解消につながります。ただし、SESの活用で確保したエンジニアの指揮命令権は、SES企業が持ちます。SES企業がエンジニアの業務内容を決定できるため、自社で想定していた内容の業務を行って守らない可能性があるのです。また、SESを迎え入れる会社側ではエンジニアを選択できず、実際に業務をしてもらわないと自社のシステム開発との相性がわからない点もデメリットといえます。⑤ニアショア開発ニアショア開発とは、国内の地方都市の企業・拠点に対して開発業務を委託することです。ニアショア開発を活用すれば、システム開発に携わるスタッフを自社オフィス内に常駐させる必要がなくなるため、固定費・光熱費などのコスト削減につながります。また、ニアショアの場合は業務委託先との間で言語の違いがなく、通訳を介する必要がありません。時差もないため、意思疎通に余計な時間をかけることがないでしょう。一方で、ニアショアは国内の企業に対して業務委託を行うため、後述するオフショア開発と比べるとコスト削減効果が低いです。都心部と比べて地方は人口が少なく、自社のシステム開発に適した人材が確保しにくい点もデメリットといえます。ニアショア開発について理解を深めたい場合は、以下の記事をご覧ください。ニアショアとは?オフショアとの違い、メリット・デメリットを解説⑥オフショア開発オフショア開発とは、自社の開発業務を人件費の安価な海外企業や海外子会社に対して委託・移管することです。オフショア開発では、新興国や発展途上国など日本と比べて貨幣価値(米ドルの為替レート)が低い国に対して開発業務を委託します。そのため、人件費を抑えやすく、開発コストを大幅に軽減できる可能性があります。また、人材が豊富な国に拠点を置く企業を相手にオフショア開発を行うことで、人材不足の問題を解決できます。ただし、請負開発(請負契約)でオフショア開発を進める場合、プロジェクト単位で業務委託を行うため、プロジェクト完了後にチームが解散し、システム開発に関する知見が自社に残りません。この方法では、人材やノウハウを定着できない点にデメリットがあるでしょう。オフショア開発の詳細は、以下の記事で解説しています。オフショア開発とは?活用される背景や目的、メリット・デメリットを解説⑦ラボ型開発最後に、ここまで紹介した6つの方法にある課題を解決したうえで、開発リソースの解消を図れる方法として、ラボ型開発を紹介します。ラボ型開発(ラボ契約)とは、オフショア開発の一種であり、一定期間にわたり専属チームを確保し、委託元の指示で開発を行うことです。ラボ型開発では、特定の業務・行為に対して報酬が発生する準委任契約として、3カ月〜1年ほどの期間を設定して契約を締結するのが一般的です。ラボ型開発では、契約期間中、自社専属のエンジニアチームを確保できます。契約期間内であれば案件を継続的に発注できることから、案件単位でプロジェクトを再編成したり、ゼロから情報共有を行ったりする手間がかからず効率的です。また、ラボ型開発では、アジャイル型開発の手法が用いられることが多いです。アジャイル型開発では、プロジェクトが確定する前で、仕様変更が発生しやすい開発でも安心して進められます。また、契約期間内であれば追加費用などの細かな調整も求められず、自由に人的リソースを使用できる点もメリットです。さらに、ラボ型開発では、通常のオフショア開発とは違い、自社専属の開発チームを一定期間にわたり確保できるため、自社にシステム開発の知見やノウハウを積み重ねられます。これにより、開発スピードの向上やチーム間コミュニケーションの円滑化など、システム開発にポジティブな影響を及ぼす可能性が高いです。以上のことから、より効果的に開発リソースの解消を図りたい場合、ラボ型開発の活用を検討しましょう。ラボ型開発について詳しく知りたい場合は、以下の記事をご覧ください。ラボ型開発とは?メリット・デメリット、請負型との違い、注意点を解説まとめ開発リソースとは、システム開発のプロジェクトにおいて、目標達成のために活用されるさまざまな資源のことです。開発リソースが不足すると、従業員の離職率が上がったり、生産性が低下したりといった悪影響が及ぶおそれがあります。開発リソースを解消するためには、まず開発リソースの最適化や人材育成、優秀なIT人材の採用といった手段が考えられます。また、外部委託の手段として、SESやニアショア開発、オフショア開発などの方法が採用されることもあります。いずれの方法にもメリット・デメリットがあるため、それぞれの特徴を把握したうえで、自社の状況に適した方法で開発リソース不足の解消を目指しましょう。より効果的に開発リソースの解消を図りたい場合、ラボ型開発の活用をおすすめします。