バングラデシュでのオフショア開発は高い英語力、安い単価、IT企業への政府支援、豊富な人的資源、親日家の多さ、そして高い技術力が大きな魅力です。しかしそれと同時に注意が必要な点もあります。本記事ではそのメリットの詳細と、注意点、更には注意点に対する対策を説明することでバングラデシュオフショア開発を成功させるためのポイントを解説しています。バングラデシュでのオフショア開発サービスについて解説バングラデシュでのオフショア開発とは?バングラデシュでのオフショア開発の特徴はエンジニアの英語力や技術力の高さ、それに対する単価の安さや政府によるIT関連企業の法人税優遇などが挙げられます。事前知識に知っておきたいバングラデシュの概要と歴史バングラデシュは南アジアに位置する共和制国家で、インド、ミャンマーと国境を接し、南はインド洋に面しています。日本の約4割ほどの国土に約1億7000万人が暮らしており公用語はベンガル語、信仰されている宗教はイスラム教(88.3%)、ヒンドゥー教(10.5%)、仏教(0.6%)の順に多くなっています。バングラデシュの歴史は古く紀元前5世紀頃から文明が発達しており15世紀末にはヨーロッパの貿易商人が訪れ、18世紀末にイギリスの東インド会社により植民地化されました。その後1947年にインドの一部としてイギリスから独立し、宗教を理由にインドとパキスタンの2カ国に分離された後、更にパキスタンが東西に分裂。バングラデシュは東パキスタンとして独立しました。しかしその後、言語や文化の違いから西パキスタンとの間で対立が深まり1971年にはバングラデシュ独立戦争が勃発。インドの支援を受けて勝利を収めたバングラデシュは完全にパキスタンから独立した国家として歩み始めました。オフショア開発の基礎知識本記事を読み進める上で、オフショア開発の基本的な内容について下記に3つ挙げましたのでご確認ください。オフショア開発について詳細に知りたい方は「海外システム開発のメリットとデメリット、成功するためのポイント」という記事もご参照ください。1)コスト削減オフショア開発では人件費が安い海外の開発会社に開発を委託するためコスト削減が期待できます。2)人材確保日本では、ITエンジニアの不足が深刻化しています。一方、海外ではITエンジニアの人口が急増しています。そのため必要な人材を確保できるという点でもオフショア開発は有効です。3)柔軟な開発体制オフショア開発では海外の開発会社と協力して開発を行うため、柔軟な開発体制を構築することができます。例えば日本と時差の少ない国とリアルタイムでコミュニケーションを取りながら共同開発を進めたり、逆に時差が大きい国とはビジネスアワーのズレを利用して24時間体制での開発を実現したりと開発体制の幅が大きく広がります。バングラデシュを選ぶメリットその1:英語力の高さバングラデシュ人の英語力は一般的に高いと言われており、エンジニアも例外ではありません。このため社内に英語が堪能な人材がいるのであればブリッジSE雇うことなく開発を進めることが可能です。バングラデシュ人の英語力が高い理由には下記、3つが挙げられます。1)イギリス連邦加盟による英語教育の普及バングラデシュは、イギリス連邦(*1)に加盟しており、初等教育から英語で授業が行われています。そのためバングラデシュ人は英語に触れる機会が多く、英語力を身につける機会が豊富にあります。2)経済発展に伴うグローバル化の進展バングラデシュは、近年急速な経済成長を遂げておりグローバル化が進んでいます。そのためバングラデシュ人は英語を場面が活用する場面が増えており、英語力を向上させる意欲が高まっています。3)英語を活用する案件の多さバングラデシュのエンジニアは英語力が求められる傾向が高いため熱心に英語を学ぶ傾向があります。このため日常会話だけでなく技術的な議論やプレゼンテーション等、業務に必要な英語も問題なく使いこなせるエンジニアが多く存在します。ただし、英語力にも個人差があるため、必ずしもすべてのバングラデシュ人が優れた英語力を有しているわけではありません。そのため、バングラデシュ人と英語でコミュニケーションを取る際には、英語力のレベルを事前に確認しておくことが大切です。(*1)イギリス連邦は、かつてイギリスの植民地や自治領だった56の国と地域から構成される国家連合のことで1931年のウェストミンスター憲章によって設立されました。イギリス連邦の加盟国は政治、経済、文化などさまざまな分野で協力しています。また平和と民主主義の推進、貧困撲滅、持続可能な開発などの分野でも積極的に活動しています。バングラデシュを選ぶメリットその2:単価の安さインド、フィリピンと比較した人月単価バングラデシュ人の英語力の高さは前述の通りですが、同じく英語力の高さに定評のあるインド及びフィリピンの単価と比較してコストメリットを見てみましょう。まずバングラデシュと国境を接するインドと比較すると単価の安さは明らかであり、特にシニアエンジニアでは1人あたり約23万円、PMであれば約53万円も単価を抑えることができます。またフィリピンと比較するとプログラマーやブリッジSEの単価においてはフィリピンの方が安く抑えられるものの、シニアエンジニアでは7万円程、PMにおいては12万円程もバングラデシュの方が単価を安く抑えられます。このような傾向から英語力と高度スキルを要するIT人材が必要なオフショア開発ではバングラデシュが非常に強みを発揮するといえます。人月単価(万円)プログラマーシニアエンジニアブリッジSEPMバングラデシュ44.1346.1390.9658.63インド50.8368.7594.29111.43フィリピン35.8353.3381.2570.83参考:オフショア開発.com オフショア開発白書「2023年版」バングラデシュを選ぶメリットその3:バングラデシュ政府による手厚いIT企業支援バングラデシュ政府はIT産業の育成と発展を支援するために、さまざまな政策を実施しています。IT関連企業の法人税優遇バングラデシュでは政府が推し進めるIT化促進政策である「デジタル・バングラデシュ」が施行されています。この政策によりIT関連企業の法人税が2024年6月まで免除されます。さらに、政府が定める経済特区(Bangladesh Economic Zones Authority:BEZA)およびハイテク・パークに設立した企業は10年間の法人税減免の優遇措置がされます。このためバングラデシュのIT関連企業は税制面で優遇されており、オフショア開発においてもコストを抑えることができます。IT教育のサポートバングラデシュ政府は、2021年までにすべての学校で基礎教育におけるIT教育を導入することを目標としています。具体的には、初等教育からコンピューターやプログラミングの授業を導入し、国民のITリテラシーの向上を図っています。またIT専門学校の設立も進めており、政府系のIT専門学校や民間企業が運営するIT専門学校を設立し、IT人材の育成をサポートしています。これらに加えて優秀なIT教育人材の育成をサポートするためにIT関連の海外留学にかかる費用の一部を援助しています。バングラデシュ政府のこうしたIT教育は近年着実に成果を上げており、優秀なIT人材の育成が進んでいます。バングラデシュを選ぶメリットその4:豊富な人的資源と親日家の多さ豊富な人的資源バングラデシュの2023年時点での人口は1億6,935万人で、これは世界で7番目に多い人口です。加えて国民の平均年齢も24歳(2023年時点)と世界で最も若い国の1つであり、20歳未満の人口は約3分の1を占めているため生産年齢人口の増加が期待できます。バングラデシュではエンジニアの平均年収は他の職業と比較して高く、優秀で高収入を得たいという意欲を持つ学生がエンジニアを志望する傾向があります。こういった傾向もエンジニアの質の高さに繋がっているのです。親日家の多さバングラデシュに親日家が多いといわれていますが、その理由は大きく2つあります。1つ目は日本が先進国の中で最初にバングラデシュの独立を承認したことです。このためバングラデシュ人は日本がバングラデシュの独立を強く支持しているという印象を持っており、バングラデシュの人々は日本に対して深い感謝の念を抱いています。2つ目は日本がバングラデシュの経済発展を支援するためにODA(政府開発援助)(*2)や民間企業による投資などさまざまな援助を実施していることにあります。このような支援によりバングラデシュの人々は日本から経済的な恩恵を受けていることを実感しています。日本に対するポジティブな感情は信頼関係の構築やフショア開発を成功に導くうえでも大切なポイントとなります。(*2)ODAとは、政府開発援助(Official Development Assistance)の略称で、開発途上国の経済発展や福祉の向上のために、先進国の政府や政府機関が行う援助や出資のことを指します。ODAには、以下の3つの形態があります。無償資金協力:開発途上国に対し、無償で資金を提供する。有償資金協力:開発途上国に対し、低利子で資金を提供する。技術協力:開発途上国に対し、技術や人材を提供する。ODAは開発途上国の経済発展や人々の生活の向上に貢献しています。具体的な例としては、道路や橋などの社会基盤の整備、学校や病院などの教育・医療施設の整備、農業や漁業などの産業振興、環境保護などの分野での支援が挙げられます。バングラデシュを選ぶメリットその5:高い技術力バングラデシュが高い技術力と考えられるポイントを2つ紹介します。 1)高い英語力と勤勉さによる最新情報への感度の高さIT技術の最先端情報は英語で発信されることが多いですが、バングラデシュ人は高い英語力と勤勉な国民性により最新技術を意欲的に習得する傾向があります。またバングラデシュ人はインドとほぼ同等の理系的能力を持っています。このようは背景からバングラデシュのエンジニアの技術は近年急速に向上しています。2)欧米企業のオフショア開発依頼が多く実績が豊富国民の英語力の高さと理系的能力の高さ、加えてインドの人件費の高騰によりバングラデシュは早くから欧米企業のオフショア開発先として注目されており、開発実績も多く積んでいます。最新技術に対する感度の高さに加えてこういった実績の多さもバングラデシュ人エンジニアの技術力の高さの秘密です。バングラデシュのオフショア開発の注意点と対策・対応バングラデシュのオフショア開発の注意点と対策・対応について下記4つご紹介します。1)宗教の違いバングラデシュは国民の約88%がイスラム教を信仰しています。このためビジネスを進めるうえでも宗教の違いへの配慮が必要です。例えばイスラム教では金曜日が一番神聖な日とされており、休日は一般的に金曜日と土曜日です。また1日5回の礼拝があるため礼拝時間のミーティングをなるべく避ける、男性であればムスリム女性と部屋で2人きりのミーティングを避けるなどの配慮をする必要があります。イスラム教を信仰する国でのビジネスについては「インドネシア オフショア開発の単価とリスクを比較して選ぶポイントを解説」でも解説していますのでそちらも併せてご覧ください。2)未発達なITインフラ整備バングラデシュはITインフラの整備が未発達で停電に見舞われることがあります。このため停電などのアクシデントに備えた開発計画を立てる必要があります。しかしながらバングラデシュ政府はデジタル・バングラデシュ政策の一環で光ファイバーケーブルの敷設や、データセンターの建設などを実施しているためこのような課題も解消されていくことが見込まれます。3)政情不安バングラデシュは目覚ましい発展を続けていると同時に、拡大していく貧富の格差が社会不安を生み、それが政情不安につながっています。2014年、バングラデシュの2大政党の1つアワミ連盟(AL)が政権を奪還して以降、対立正当のバングラデシュ民族主義党(BNP)は選挙の不正を訴えて選挙ボイコットを繰り返しています。2022年にはBNPの支持者が暴動を起こし死傷者が出るなど、政情不安は新たな局面を迎えています。このため契約書に政情不安に関する条項を盛込む、現地のニュースをこまめに確認するなどの対応が必要です。4)自然災害バングラデシュは国土の約9割が標高10m以下の低平地である世界最大規模のデルタ地帯に位置し、雨季には国土の約20%が浸水します。また、ほぼ毎年サイクロンが来襲するため地形的要因に加えて気象・気候的要因による災害が頻発しています。このためオフショア開発拠点の標高や立地、企業として災害対策を行っているかの確認や、契約書に自然災害に関する条項を盛込むことも有効です。まとめ以上、バングラデシュのオフショア開発の魅力について解説しました。バングラデシュでのオフショア開発の魅力は、エンジニアの英語力及び技術力が高い水準にあるにも関わらず新興国であるがゆえに比較的単価が安いところにあります。一方で新興国であるが故の未発達なITインフラ設備、宗教の違いや政情不安、自然災害リスクといった課題もあります。しかし十分な下調べと事前準備、適切な対応をすることでこういった課題の多くは解決します。本記事を読んだ皆さんのオフショア開発が成功することを心より願っています。▼関連記事オフショア開発比較:主要国の特徴とメリット・デメリット