インドネシアのオフショア開発のメリットとしては、人件費(人月単価)や物価の安さ、温厚で他者を尊重し助け合う国民性、世界第4位の人口と豊富なIT人材、モバイル系の開発実績、巨大な国内マーケットなどが挙げられます。一方、デメリットや注意点としては新興国ゆえのシステム開発実績の少なさ、文化や宗教の違いによる働き方の違い、言語の壁などがありますが適切な対策を講じればリスクを最小限に抑えることが可能です。本記事では、最新のデータをもとにインドネシアという国の事情を解説しつつ、インドネシアでのオフショア開発の単価とリスクを比較して開発パートナー選びの参考にするための情報を提供します。インドネシアを選ぶメリット1:人月単価や物価の安さベトナムと比較しても安価なエンジニアの人件費インドネシア人のIT技術者の月単価は平均約24万円(1)です。これは単価の安さがメリットとして挙げられているオフショア開発先、ベトナムの人月単価相場40万円〜79万円(2)と比べても大幅に費用を抑えられることが分かります。(*1)参考:オフショア開発.com."オフショア開発基本情報”.”インドネシアオフショア開発の単価”.2017年11月3日最終更新.https://www.offshore-kaihatsu.com/contents/indonesia/price.php,(2023年9月18日参照)(*2)参考:オフショア開発.com."オフショア開発基本情報”."【2023年最新版】ベトナムオフショア開発の人月単価相場".2023年09月8日最終更新.https://www.offshore-kaihatsu.com/contents/vietnam/price.php,(2023年9月18日参照)システム開発にかかるインフラコストの削減インドネシアの家賃や通信費は日本の三分の一から二分の一といわれています。例えば、東京の都心部で100平米のオフィス賃料は、月額約30万円から40万円程度ですが、インドネシアの首都ジャカルタの都心部では、100平米のオフィス賃料は、月額約10万円から20万円程度が相場となっています。またWi-Fiをレンタルした場合の料金も比較すると、日本では月額1000円~2000円であるのに対してインドネシアでは500円~1000円となっています。もちろん法人プランは完全にこの通りではないでしょうが、非常に安く抑えられるのは事実です。このためインドネシアにシステム開発拠点を設置する場合も大幅な費用削減が期待出来ます。ただしインドネシアは地震や津波、火山噴火などの自然災害が多いのも特徴であるため、現地にオフィスを借りて開発を行う際には立地条件の確認を念入りに行うとよいでしょう。インドネシアを選ぶメリット2:温厚で他者を尊重し、助け合う国民性異文化への寛容性外務省によるとインドネシアには300もの民族が居住しており、宗教もイスラム教が86.69%、キリスト教が10.72%、ヒンズー教1.74%とその他様々な宗教が進行される多民族・他宗教国家です。このためインドネシア国民は異なる価値観に触れる機会が多く、他者を尊重する姿勢を大切にしているため、文化の違いへの相互理解が比較的スムーズに行えるでしょう。相互扶助の考え方インドネシアにはゴトン・ロヨンという相互扶助の慣習が根付いています。ゴトン・ロヨンは、ジャワ語の "gotong" (運ぶ、持ち上げる)と "rojong" (一緒に、集まって)からなり、「一緒に集まって持ち運ぶこと」から転じて相互扶助を意味します。ゴトン・ロヨンの考え方は、ムラ(村)の住民が互いに助け合って、共同体のために働くというもので、伝統的な価値観である「トモラン(助け合い)」に基づいています。トモランとは、困っている人を助けることは、自分自身を助けることにつながるという考え方です。この考え方はによって、インドネシアの村々は、道路や橋などのインフラ整備や、農作業などの共同作業を効率的に行うことができた他、ムラの住民の結束を強め、共同体意識を育む役割も果たしてきました。ゴトン・ロヨンやトモランの考え方は、現代のインドネシア社会においても、依然として重要な価値観となっており、ビジネスにおいて困難が発生した時にもこの考え方が発揮されることもあるでしょう。参考:"【コラム】インドネシアのゴトン・ロヨン(相互扶助)文化".インドネシア研究所.2022年3月30日.https://www.indonesiasoken.com/news/indonesian-mutual-aid-culture%EF%BC%88gotong%E2%80%90royong%EF%BC%89/(参照2023年9月15日)明るく陽気な国民性インドネシアは赤道に位置する国のため常夏の国です。そのため南国の国民特有の陽気で明るく前向きな方が多い傾向にあります。イスラム教の労働に対する価値観イスラム教では、働くことは神への奉仕であるとされています。そのためインドネシア人は、真面目で勤勉に働く傾向があります。またイスラム教では嘘をつくことは罪であるとされているため、インドネシア人は誠実に仕事に取り組む傾向がありますインドネシアを選ぶメリット3:世界第4位の人口と豊富なIT人材インドネシア人口の現状と今後の動態予測2020年時点でのインドネシアの人口は約2億7000万人でこれは世界第4位の人口規模です。また人口増加率も2021年で1.22%、2022年で1.17%、2023年で1.13%とやや鈍化傾向にはあるものの堅調に増加しています。また2023年の時点で国民の平均年齢が29歳と若いため今後も人口の増加が予想されます。参考:STATISTICS INDONESIA."Population Growth Rate (Percent), 2021-2023"インドネシア政府によるIT人材育成の後押しインドネシアは2020年までにインドネシアを東南アジアのデジタルエコノミー先進国にするという目標を掲げた「2020 Go Digital Vision」という政策を掲げており、この政策では、デジタル化を推進するための以下の施策が盛り込まれています。デジタルインフラの整備デジタル人材の育成デジタルサービスの普及また2025年に向けては「国家 ICTマスタープラン」というIT産業の育成を目標とした政策を掲げておりIT人材の育成、研究開発の強化、インフラ整備の強化が盛り込まれています。これらの政策によりインドネシアは近年急速にIT化が進んでいます。2023年現在インドネシアは、東南アジア最大のIT市場であり今後もIT産業の成長が期待されています。インドネシア政府が外資の情報技術分野への出資条件を緩和ンドネシア政府は「経済政策パッケージ第16弾」を始動させ、投資ネガティブリストを緩和させました。これによりIT分野の外資による出資のハードルも下がったため、オフショア開発の追い風となっています。参考:CNBC INDONESIA."https://www.cnbcindonesia.com/news/20181116193025-4-42581/ini-daftar-54-bidang-usaha-yang-bisa-dimiliki-asing-100"インドネシアを選ぶメリット4:モバイル系の開発実績モバイル普及率増加によるモバイルアプリやSNS開発の強みインドネシアは各世帯のPCの普及率は2015年から2019年まで20%程度と横ばいである一方、インターネットが利用可能な世帯は同年間で約49%から約74%にまで大幅に上昇するなどスマートフォンの普及が急速に進んでいることが示唆されます。そのためシステム開発においてもモバイルアプリやSNSの開発が盛んです。インドネシアのモバイルアプリの開発実績は具体的には以下のようなものが挙げられます。1)ソーシャルメディアアプリインドネシアでは、ソーシャルメディアアプリの利用が非常に盛んです。代表的なソーシャルメディアアプリとしてはFacebook、Instagram、TikTokなどが挙げられます。これらのアプリはインドネシアで開発されたものも多く、インドネシアのモバイルアプリ開発の技術力の高さを示しています。2)Eコマースアプリインドネシアはeコマース市場の成長が著しい国です。代表的なeコマースアプリとしてはTokopedia、Shopee、Lazadaなどが挙げられます。これらのアプリはインドネシアのモバイルアプリ開発の市場規模の拡大を牽引しています。3)フードデリバリーアプリインドネシアではフードデリバリーサービスが人気です。代表的なフードデリバリーアプリとしてはGojek、Grab、Foodpandaなどが挙げられます。これらのアプリはまだまだ実績は少ないもののモバイルアプリ開発の新たな市場として注目されています。インドネシアの人口増加や所得の増加、IT化の進展などにより、インドネシアのモバイルアプリ市場は、さらなる成長が見込まれます。加えて安く押さえられる人件費や諸経費を鑑みても、国内の物価高騰に悩まされる日本企業はインドネシアのモバイルアプリ開発市場への進出を積極的に検討することが重要です。参考:インドネシア研究所,"【コラム】インドネシアの若者のインターネット利用率とパソコン・携帯電話の利用率".(2021年2月25日).https://www.indonesiasoken.com/news/youthuseinternet/.(2023年9月19日)インドネシアを選ぶメリット5:巨大な国内マーケット世界第4位の人口と高い経済成長率インドネシアの魅力の一つに人口の多さを挙げましたが高い経済成長率も大きな魅力です。JETROによるとインドネシアのGDPは、新型コロナ流行初期の2020年代〜2021年の第一四半期を除き5%台前後の高い成長率を保っており、国民の所得についても2000年には30.1%程度であった中間所得層(世帯所得5,000~34,999US$)が2020年には70.3%にまで急激に増加しており、購買力が上がっています。更に前章でも述べた通り現地のEコマースやフードデリバリー需要が今後も拡大していくことが期待されており、2022年にはインドネシアのモバイルアプリ市場規模は約180億米ドル(約2兆円)に達し、2025年には約280億米ドル(約3.3兆円)に成長すると予想されています。参考:日本貿易振興機構(JETRO)."第2四半期のGDP成長率は前年同期比5.17%、輸出減も国内消費は堅調に推移(インドネシア)".(2023年8月16日).https://www.jetro.go.jp/biznews/2023/08/23c1cd0d5dafa491.html.(2023年9月19日閲覧)参考:経済産業省."医療国際展開カントリーレポート新興国等のヘルスケア市場環境に関する基本情報インドネシア編".(2021年3月).https://www.meti.go.jp/policy/monoinfoservice/healthcare/iryou/downloadfiles/pdf/countryreport_Indonesia.pdf.(2023年9月19日)スタートアップ企業の増加と今後の展望インドネシアでは中間層の拡大によりITサービスの需要が高まっています。こうした状況を背景にインドネシアのITスタートアップ企業はモバイルアプリ、eコマース、フードデリバリー、フィンテックなど、さまざまな分野で活躍しており、グローバルな投資家からも注目を集めています。こうした投資家たちはインドネシアのIT系スタートアップ企業は高い成長性と潜在力があると評価しており、2022年のインドネシアのIT系スタートアップの資金調達額は約20億米ドル(約2,400億円)に達しました。これは前年比で約2倍に増加しており、こうした投資の拡大もインドネシアのマーケットの大きさとポテンシャルを示す指標であるといえるでしょう。インドネシアオフショア開発時のデメリットや注意点と対策システム開発実績の少なさインドネシアは2000年代に政府がIT教育の充実やインフラ整備の強化などIT産業の育成に力を入れ始めたためまだオフショア開発の歴史が浅く、大型案件の開発実績が豊富な企業は少ない傾向にあります。しかし、2010年代のモバイルアプリやWebシステムなどの開発需要の高まりや2020年代の新型コロナウイルス感染症の拡大によるオフショア開発の需要の高まりによって開発実績やエンジニアの経験値も高まる傾向にあります。文化の違いによる仕事の進め方の違いインドネシアには日本と同様、上下関係を大切にする文化があります。この点は日本と非常に似ていますが、敬意の表現方法が日本と異なります。例えば部下から上司に話かけるのは上司の邪魔をする行為として失礼とされています。またインドネシアには「ボスが喜ぶように」を意味する「アサル・バパ・スナン」という言葉があります。この考え方からインドネシア人は良い報告はしてもトラブルに関する報告はよしとせず、こちら側から確認をしない限り何も言いません。このため、インドネシア人エンジニアに対しては都度「困ったことはないか?」と積極的に確認を取る、日本人には悪い報告をしても不敬には当たらない旨をしっかり伝える等工夫が必要です。宗教による労働観や勤務スタイルの違いインドネシアは多民族国家であり、宗教も様々で多種多様な文化が存在します。宗教は働き方に対しても大きな影響を与えます。ここでは国民の約9割が信仰するイスラム教が与える影響について解説します。お祈り時間の確保イスラム教では、一日5回お祈りをすることが義務付けられています。お祈り時間は毎日夜明け前、昼、午後、日没時、夜の5回とされており、一部就業時間と重なります。そのためインドネシアの企業ではお祈り時間の確保を認めているケースが多いです。オフショア開発をするにあたってはミーティングをセットする際に現地のお祈りの時間からずらすと喜ばれます。ラマダンとレバランイスラム教の代表的な行事にラマダンがあります。ラマダン期間中は重労働者や妊婦、病人等を除いて日の出から日没までの飲食が禁止されています。このためインドネシアの企業はラマダン期間中は早上がり(7:30~16:30が一般的)にしているところが一般的です。またラマダンの後はレバラン(ラマダン明け大祭)休暇があります。尚、ラマダンの始終日は月の位置によって変動するため何月何日からと固定されているわけではありません。このため次回のラマダンはいつから始まるのかはインドネシア企業に確認するとよいでしょう。イスラム教におけるタブーイスラム教世界ではイスラーム法において合法なものをハラール、非合法なものをハラームといい、ハラームを避けようとします。このため特に日本で食事をする際にはハラール認証店で食事をするなど配慮をするとよいでしょう。またイスラム教では男性が未婚の女性と1対1になることや体に触れる行為はタブーとされています。対面で女性スタッフとミーティングする際は1対1を避ける、挨拶の際に握手を求めるのを控えるなど配慮が必要です。インドネシアは、人口・経済ともに成長を続ける有望な国です。インドネシア人と仕事をする機会が増えるにつれ、宗教の理解がますます重要になってくるでしょう。言語の壁インドネシアの日本語学習社数は70万人程とASEAN諸国内では高水準にありますが、流暢に日本語を話せる人材はあまり多くありません。また英語力に関しても近年向上しているものの英語を話せるエンジニアはあまり多くありません。そのため、コミュニケーションの際には言語が大きな障壁となる可能性があります。言語に不安を感じる場合には専門の会社と契約してブリッジSEを雇用し、現地との繋ぎ役を委託する等工夫が必要です。まとめ以上、インドネシアのオフショア開発についての解説でした。インドネシアはオフショア開発先としてはまだまだ未開拓な部分もありますが人口増加や経済成長に伴ってIT人材の成長も期待されるなど可能性に満ちた国です。文化の違いによるビジネス習慣の違いはあるものの、人件費の安さや今後も長期に渡って成長が見込まれるインドネシア市場には沢山の可能性が眠っています。オフショア開発先パートナー企業をお探しの方、特にASEAN諸国でのサービス展開を視野に入れて開発を進めたい方は是非インドネシアをご検討ください。